研究計画の最終年度である本年度は、抗スクレロスチン抗体が古典的Wntリガンド反応性がん細胞の骨転移を促進したメカニズムを解明するために、以下の検討を行った。 1.古典的Wntリガンドのがん細胞の増殖、遊走に対する作用:昨年度の動物実験で用いた乳がん細胞を用い、WST-8 assayおよびwound healing assayにて解析したところ、いずれの細胞においても古典的Wntリガンドに一つであるWnt3aは影響を与えなかった。 2.古典的Wntリガンドのがん幹細胞様形質に対する作用:Wnt3aのsphere形成に対する作用について検討したところ、古典的Wntリガンドに対して反応性を示した細胞でsphere形成の増加が認められた。 3.骨転移巣における破骨細胞の解析:骨転移の進展に重要な役割を果たす破骨細胞およびその前駆細胞について計測したところ、抗スクレロスチン抗体投与群ではいずれも有意な増加が認められた。 4.がん細胞によるスクレロスチン発現の制御:がん細胞の培養上清をスクレロスチン発現が確認されているラット骨芽細胞系細胞株UMR106に添加したところ、スクレロスチンの発現が著明に低下した。また、乳腺担がんマウスでは骨髄中のスクレロスチン濃度の有意な低下が認められた。 以上の結果から、抗スクレロスチン抗体の投与は古典的Wntシグナルの活性化を介し、がん細胞の幹細胞様形質の増強および骨転移巣における破骨細胞形成の促進により骨転移を促進することが示唆された。また、がん細胞の培養上清がスクレロスチン発現を抑制するとの所見は、がん細胞が自ら生育しやすい環境を作り出していると考えられる。
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