研究課題/領域番号 |
21K09894
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
栗原 英見 広島大学, 医系科学研究科(歯), 名誉教授 (40161765)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高炭水化物食 / NAFLD / 歯周炎 |
研究実績の概要 |
歯周炎が非アルコール性脂肪肝疾患(Non-alcoholic fatty liver disease (NAFLD))の増悪因子となることが報告されて以来、その病因を解明する基礎研究が盛んに行われているが、未だ決定的な知見は得られていない。これまでのマウスを用いた基礎研究では、NAFLDを発症させるために「高脂肪食」を用いていたが、歯周炎によって影響をうける糖尿病/肥満も併発するため、歯周炎とNAFLDとの直接的な因果関係の証明が困難であったためといえる。 そこで研究代表者は、「高炭水化物食」を作製しマウスに食餌として与えることで、糖尿病/肥満を発症せずNAFLDを誘導できると仮説を立てた。さらに、この「高炭水化物食」誘導性NAFLD単独発症モデルが樹立されれば、これに絹糸結紮歯周炎を併用することで、歯周炎によるNAFLDの直接的な増悪効果とそのメカニズム検証が行えると考え、本研究を開始した。 「高脂肪食」を与えられたマウスは、体重・血糖値の増加をともないながら肝臓の脂肪化、すなわちNAFLD症状を呈した。しかし、同期間「高炭水化物食」を与えられたマウスは、NAFLDを発症したものの、体重・血糖の増加は生じなかった。 さらに、「高炭水化物食」投与マウスに、歯周炎を併発させると、NAFLDの症状が増悪した。一方、体重や血糖値は、歯周炎を併発させても有意な変化は生じなかった。これらのことから、1)歯周炎はNAFLDを増悪させること、2)その歯周炎による増悪機序は糖尿病などの他疾患を介したものではなく、肝臓代謝に直接的に影響するものであることが示唆された。以上の成果をまとめ、論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯周炎とNAFLDの関連が示唆されて以来、そのメカニズム解明を目指す基礎研究の重要性が日増しに高まっている。しかし、上述した通り、マウスを用いた基礎実験において、肝臓の脂肪変性を特徴とするNAFLD誘導法には「高脂肪食」が用いられていた。この「高脂肪食」誘導性NAFLDは肥満・糖尿病を併発するため、実臨床で多くみるNAFLD患者の病態をよく再現しているといえる。しかし、歯周炎によるNAFLD増悪機序が直接的なものかどうかを調べる基礎実験モデルとしては適さない。そこで、本研究計画初年度に、「高炭水化物食」によって肥満・糖尿病は誘発せず、NAFLDのみ発症させるマウス実験モデルを樹立したことは大きな成果といえ、今後の歯周炎との関連を調べるための研究活動を円滑なものにできる。 実際、「高炭水化物食」を与えられたマウスに、絹糸結紮による歯周炎を発症させたところ、肥満・糖尿病を併発することなくNAFLD症状のみが増悪した。このことは、歯周炎が直接的に肝臓代謝に何らかの影響を与えることでその脂肪化を促進することを示唆し、当初の仮説の確からしさが示されたのみならず、次年度以降のメカニズム検証研究のための実験デザインを容易にするものであった。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
「高炭水化物食」を与えられたマウスに発症するNAFLDが、歯周炎によって他の疾患を介さずに直接的に増悪することが確認できている。そこで今後は、歯周炎がどのような機序で肝臓代謝に影響を与え肝臓の脂肪化・線維化を促進するのかを調べる。 まず、歯周炎によって生じる全身性の慢性炎症の関与を調べる。特に、絹糸結紮歯周炎が血中のIL-6濃度を高めることを研究代表者らは以前に報告していることから、IL-6を代表的な標的として、中和抗体を用いた阻害実験を行う。 また、絹糸結紮歯周炎が、口腔内細菌叢のディスバイオーシスを生じ、全身性に影響を与える可能性が示唆されている。また、絹糸結紮歯周炎によって、口腔内細菌が血行性に他臓器に到達することも報告されている。そこで、この口腔内細菌による肝代謝への影響も検討する。 一方、肝臓代謝についても特徴的な変化が生じているかを検証する必要がある。そこで上記の炎症・口腔内細菌の影響を調べる研究が順調に進行した場合は、肝臓脂質代謝についてのメタボローム解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時に、「高炭水化物食」を用いた、肥満・糖尿病を併発しない、NAFLD単独発症マウスモデルの樹立のために、食餌作製費用とマウス飼育費が高額になると予想していた。 しかし、当初想定したよりも順調に研究が進み、「高炭水化物食」誘導性NAFLDマウスモデルの樹立が、低コストで実行できた。 今後、樹立したマウスモデルを使って、口腔細菌の役割や肝臓代謝についての検証を行っていく計画である。これらは、オミクス解析等を必要とするため高額な研究資金が必要となる。そこで、今回生じた次年度使用額を充てることで、今後のメカニズム解析実験を確実に進めることが可能となる。
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