研究課題/領域番号 |
21K09898
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
荻野 玲奈 (田中玲奈) 昭和大学, 歯学部, 講師 (80585779)
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研究分担者 |
柴田 陽 昭和大学, 歯学部, 教授 (30327936)
宮崎 隆 昭和大学, 歯学部, 特任教授 (40175617)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エナメル質 / ハイドロキシアパタイト / ナノ結晶 / 再石灰化 |
研究実績の概要 |
申請者らは,漂白したエナメル質は,結晶レベルで部分的な欠陥を生じると再石灰化が活発になることを発見した【Archives of Oral Biology 55: 300-308, 2010;PLoS One 4: e5986, 2009】.本研究ではイオン溶液として,Surface pre-reacted glass ionomer fillers (S-PRG)から直接イオン抽出したものを用いた.イオン溶液は試薬を溶解させることでは得られない程,イオン強度の高い溶液であり,低温アニーリング中に炭酸イオンのエナメル質アパタイト結晶への導入を防ぐことで単斜晶へ結晶遷移を可能にする. ① 低温アニーリング後のイオン溶液適用によるエナメル質単斜晶アパタイトの作成:過酸化水素にハロゲンランプ照射を行い,エナメル質の六方晶構造に部分的な欠陥を作製した.アパタイト結晶は低温アニーリングによって本来の化学量論的構造である単斜晶に遷移するが,通常は炭酸イオンの自然導入により六方晶へ再遷移してしまうため,低温アニーリング後の単斜晶状態が維持できるようイオン溶液に浸漬した.アパタイトの化学的特性は結晶構造に大きく依存している.低温アニーリングによって単斜晶へ遷移したエナメル質のアパタイトナノ結晶は,アニーリング直後のイオン溶液適用により炭酸基の導入を防止すると同時に,単斜晶構造を維持することが可能になる. ② 顕微ラマン分光法による単斜晶アパタイトの分析:エックス線回折を行い結晶遷移を評価しようと試みたが,六方晶と単斜晶アパタイトの違いはオングストロームレベルの僅かなひずみであり,見分けることはやはり難しかった.低温アニーリング後にイオン溶液を適用したエナメル質をレーザーラマン分光法で分析し,六方晶から単斜晶アパタイトへの遷移をν2 vs ν4リン酸基振動から解析することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りエナメル質に低温アニーリングを行いイオン溶液を適用する方法で,エナメル質にナノ結晶である単斜晶アパタイトを作製することができた.さらにエックス線回折を用いて単斜晶アパタイトの存在を明らかにすることは難しかったが,顕微ラマン分光法によって六方晶アパタイトから単斜晶アパタイトへの結晶遷移が明らかになったため順調に進行しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
極めて細く集束したイオンビームを走査して観察下で試料の指定箇所を薄片し,TEM試料作製加工を行うことができる集束イオンビーム装置(FIB)を用いてエナメル質サンプルを加工し,走査型透過電子顕微鏡(STEM)にEDSを併用して,合成された単斜晶アパタイトに含まれる元素の同定と結晶構造のシミュレーションを行う.【令和4年,5年度】 次に,走査型透過電子顕微鏡を用いた最新技術によって,エナメル質の局所構造を原子スケールで分析する.本研究では特に,エナメル質に結晶ひずみや格子欠陥が生じたときの結晶構造の遷移や,結晶欠陥部に補完される原子の挙動が明らかになると考える.【令和4年,5年度】 また,単斜晶アパタイト試料にレーザ光を照射し,試料を蒸発・微粒子化しながら連続的にマッピングするレーザアブレーションICP質量分析を用いて,単斜晶アパタイトに含まれる元素を検出・定量する.可能であれば単斜晶アパタイトにおいてイオン溶液に含まれるイオンの分布をイメージングし,イオン導入の評価を行う.【令和4年,5年度】 さらに,ラマン分光法で結晶遷移が生じたと推定される単斜晶アパタイトをHRTEMによりイオン溶液に含まれるイオンの半径に基づいたシミュレーションを行い,結晶遷移に効果的なイオンを同定することで,生体内におけるイオン導入の可能性を探る.【令和4年,5年度】 最後に,低温アニーリング+イオン溶液で処理したエナメル質を人工唾液に浸漬し,再石灰化傾向をCT画像から定量する.画像解析ソフトにボリューム自動位置合わせオプションの機能を加えることで,撮影されたCT値をもとに,未処理および処理群の重ね合わせをより正確に行うことが可能である.【令和5年度】
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)物品費に関しては,エナメル質サンプル作製が当初の予定より順調に進んだため,試薬の購入が予定より少なかった.旅費は,コロナウイルスの影響で学会がオンライン開催になったため,支出がなかった.その他に関しては,今年度中に業者にサンプル加工を依頼する数が予定数より少なくエナメル質サンプル加工にかかる予定の費用が次年度に持ち越しとなり次年度使用額が生じた. (使用計画)物品費はサンプル作製に不可欠な精密切断機のブレードの購入や,研磨剤試薬の調整に用いるpHメーターの電極など消耗品を購入するために充当する.旅費に関しては,コロナウイルスの状況が改善されれば,日本歯科理工学会,日本歯科保存学会などの現地開催見込まれるため,学会に赴き発表の機会が増加すると考えられる.その他の費用では,今後様々な再石灰化条件を検討する際に,サンプル数増加に伴いサンプル加工の業者依頼にかかる経費として計上する.
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