研究課題/領域番号 |
21K09906
|
研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
岩崎 剣吾 大阪歯科大学, 歯学部, 准教授 (40401351)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 歯周病 / 再生 / 歯根膜 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
歯周病では歯を支える歯周組織が吸収され歯の支持組織を失うことによって歯の寿命の短縮を招く。間葉系幹細胞を用いた細胞治療による歯周組織の再生が提唱されてきたが、最近、移植された幹細胞の生着が予想よりも少ないこと、さらに創傷治癒過程において細胞死が単なる細胞の消失ではなく、その後の組織反応に影響をおよぼすことが報告されている。本課題の目的は、間葉系幹細胞に細胞死を誘導した際に放出される産生物の組織再生への影響を検討することである。 前年度に骨髄間葉系幹細胞のネクローシスによって得られる細胞抽出物が、歯根膜細胞の増殖を著しく増強すること、この細胞増殖活性が細胞抽出物に含まれるタンパク成分によることを明らかとした。本年度は、歯根膜細胞の遊走への影響についてまず検討した。その結果、骨髄間葉系幹細胞のネクローシスによって得られた細胞抽出物が歯根膜細胞の遊走を増殖同様に含まれるタンパク成分を介して促進することが明らかとなった。歯根膜細胞の増殖、遊走促進作用を有することから、含まれる増殖因子、サイトカインについてprotein arrayを用いて検討したところ、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)および肝細胞増殖因子(HGF)が多く含まれていることが確認された。さらに、タンパク抽出物を作用させた歯根膜細胞において変動する遺伝子について、mRNA-seqおよびGeneOntology解析を用いて検討したところ、細胞増殖、細胞分裂に関連する多くの遺伝子群が変動することが明らかとなった。 今後、骨髄間葉系幹細胞由来タンパク抽出物の歯周組織再生能力について、in vivoにおいて検証する予定である。ラットに作製した歯周組織欠損へタンパク抽出物を移植し歯周組織の再生量について比較検討を行う。またアポトーシスをよって細胞死に至った細胞からの代謝物の歯根膜細胞への影響についても検討を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯根膜細胞の増殖、遊走が歯周組織再生において重要な現象であることから、骨髄間葉系幹細胞抽出物およびタンパク抽出物の細胞遊走についての検討をBoyden Chamberを用いて行った。その結果、骨髄間葉系幹細胞抽出物は歯根膜細胞の遊走を有意に増強し、その遊走活性は抽出物の熱処理により大きく減弱し、またタンパク抽出物によっても歯根膜細胞の遊走が誘導される結果が観察された。昨年度の結果と合わせて、骨髄間葉系幹細胞抽出物は歯根膜細胞の増殖および遊走能を増強するが、その作用のほとんどは含まれているタンパク成分によるものであることが明らかとなった。骨髄間葉系幹細胞タンパク抽出物の作用を詳細に検討する目的で、タンパク抽出物を作用させた歯根膜細胞において変化する遺伝子について次世代シークエンサーを用いたRNA-seq解析にて検討した。その結果、数多くの遺伝子の発現レべルが変動し、Gene Ontology 解析においては細胞増殖、細胞分裂に関連する遺伝子群が大きく変動している結果が得られた。次に、骨髄間葉系幹細胞抽出物およびタンパク抽出物に含まれる内容物について、Protein arrayを用いて成長因子を網羅的に解析した。その結果、間葉系幹細胞抽出物、タンパク抽出物ともに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および肝細胞増殖因子(HGF)を多く含むという結果が得られた。ELISA法においてもbFGFおよびHGFが含まれることが確認された。 これらの結果から、骨髄間葉系幹細胞抽出物はタンパク成分を介して、歯根膜細胞の増殖および遊走を増強することが明らかとなった。間葉系幹細胞タンパク抽出物は多様なタンパク質を含み増殖因子としてbFGF, HGFを多く含んでいた。さらに、このタンパク成分を作用させた歯根膜細胞では細胞分裂に関連する多くの遺伝子の発現レベルが上昇することも確認された。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、骨髄由来間葉系幹細胞へネクロ―シスを誘導した際に得られた抽出物が、歯根膜細胞の増殖および遊走をタンパク成分を介して増強することを明らかとした。今後、タンパク抽出物が歯周組織再生を誘導することが出来るかという点について検討を行う予定である。ラットの歯周組織を外科的に除去することによって歯周組織欠損モデルを作製し、歯周組織欠損内にタンパク抽出物を投与し、vehicleを投与するコントロール群と歯周組織再生量の比較を行う。再生歯周組織量の比較にはマイクロCTおよび組織標本上での組織形態計測を用いる。歯根膜線維の観察にはピクロシリウスレッド染色を行う。また、骨髄間葉系幹細胞抽出物およびタンパク抽出物の細胞増殖、遊走増強作用の更なるメカニズムの解析の目的で、bFGFおよびHGFをsiRNAでノックダウンした細胞からの細胞抽出物、タンパク抽出物の細胞増殖、遊走促進作用への影響を検討する。さらに、リコンビナントbFGFおよびHGFの刺激による歯根膜細胞の増殖、遊走の変化についても検討し、細胞抽出物、タンパク抽出物におけるbFGF、HGFの重要性について検証を行う予定である。 ネクローシスと並んでもう一つの代表的な細胞死であるアポトーシスについても、歯根膜細胞への影響について検討を行う。代表的なアポトーシス誘導因子である紫外線およびスタウロスポリンを用いて骨髄間葉系幹細胞にアポトーシスを誘導し、Annexin Vおよび7AADの染色によってアポトーシスの誘導を確認する。その後、アポトーシスによって細胞死に至った骨髄間葉系幹細胞から代謝される因子を回収し、さまざまな遠心分離によって得られるアポトーシス代謝物の分画の歯根膜細胞の増殖、遊走、歯周組織再生への影響を検討する 以上の検討により、骨髄間葉系幹細胞の細胞死によって代謝される因子の持つ歯周組織再生への影響を明らかとする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度終了時には417,714円の次年度使用額が生じている。これは、コロナウィルス感染症によって、一定時期実験をストップしたこと、動物実験の開始が2023年度になるため、その資金を残すようにしたことが原因である。今のところ、研究全体としての進行度には大きな遅れはないと考えられるが、2023年度に行う動物実験では飼育費用、手術器具、組織切片作製、などの大きな費用がかかることが予想される。また、2023年度が本研究課題の最終年度に当たることより、研究結果を公表するための論文執筆に掛かる投稿費用、掲載費用が必要となる。論文掲載料は近年増額の傾向にあるため、未だ投稿先は未定ではあるが、ある程度の金額を論文掲載料として使用する予定である。この際、費用をかけてオープンアクセス化することにより研究内容を広く公開するようにしたいと考えている。
|