研究実績の概要 |
歯周病は歯周組織の慢性炎症によって歯を支える組織の減少が引き起こされる疾患である。これまで間葉系幹細胞の移植によって歯周組織の再生が誘導されることが報告されてきたが、一方で一定数の移植細胞が細胞死を起こすことも明らかとなっている。我々は、死細胞に由来する因子の創傷治癒への影響について着目し、細胞死を誘導した間葉系幹細胞から回収した因子による創傷治癒への影響を検討することを目的としている。 前年度までに、ネクローシスを誘導した間葉系幹細胞から回収された因子が歯根膜細胞の増殖および遊走をタンパク成分を介して増強すること、また、タンパク成分にはマトリクスタンパク、酵素、細胞骨格タンパクが多く含まれていることを確認した。さらに、網羅的解析からb-FGFおよびHGFが豊富に含まれていることも明らかとした。 本年度は、ネクローシスと共に重要な細胞死の形態であるアポトーシスの際に放出される因子についての解析を進めた。アポトーシスの誘導として紫外線を用いたが、血清濃度や紫外線強度の至適化が困難であり、適切なアポトーシス誘導に至らなかった。そこで、アポトーシス誘導剤として知られるスタウロスポリンを用いたところ、顕著な間葉系幹細胞のアポトーシスの誘導が確認された。このアポトーシス誘導間葉系幹細胞から回収された液性因子を歯根膜細胞へ作用させた所、細胞の増殖活性には大きな変化を与えなかったが、マクロファージ分化への影響を検討した所、M2マクロファージの分化マーカーであるCD163, IL-10の発現の上昇を認めた。これらの結果はアポトーシスによって細胞死に至った細胞から放出される因子にはマクロファージの分化に作用して創傷治癒に影響する可能性を示唆するものと考えられる。 ネクローシスおよびアポトーシスに至った間葉系幹細胞から放出される因子に創傷治癒促進を促す因子が含まれていることが明らかとなった。
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