研究実績の概要 |
歯髄幹細胞は、様々な組織に分化する能力を保持し、脱落した乳歯や智歯等の抜去歯から採取可能なため、入手しやすい細胞治療の細胞源としての期待が高まっている。歯髄幹細胞の分化制御メカニズムの全貌は、未だ明らかにされていない。歯髄幹細胞研究は乳歯・智歯から採取した初代細胞を用いることが多いが、初代培養細胞は、ある一定回数の細胞分裂後に細胞老化によって性質が変化するため、研究材料としての利用には限界がある。これまでに申請者は、K4DT法 (変異型CDK4,サイクリンD, TERT)という無限分裂方法を用いて、無限分裂ヒト歯髄由来幹細胞hDPSC-K4DTの樹立に成功している。しかし、細胞の増殖と分化はお互いに相反する細胞現象であり、細胞増殖を強く誘導する変異型 CDK4、サイクリン D(K4D)の外来遺伝子導入細胞は、歯髄幹細胞の分化制御メカニズムの解明研究や象牙質再生研究には不向きである。そこで本研究では、本課題を克服することを目的として、ドキシサイクリン(Dox) という低分子化合物によって、K4D 遺伝子発現のオン/オフを制御できる薬剤誘導型発現ベクターを作出し、薬剤誘導型無限分裂ヒト歯髄幹細胞Tet-off K4DT hDPSCs(以下、Tet-off K4DT)の樹立に成功した。Tet-off K4DT細胞にDoxを培地に添加すると、無限分裂を誘導する変異型CDK4、サイクリンD遺伝子の発現がOFFになり、分裂が停止するため、分化誘導研究で欠かせない長期培養の確立が可能となることを示した。一方、Doxを抜くと導入遺伝子がON、未分化なまま無限に増殖できることを明らかにした。以上より、本研究で作出した薬剤誘導型無限分裂ヒト歯髄幹細胞は、長期間の細胞培養が可能となり、歯髄幹細胞の分化制御メカニズムの解明研究や象牙質再生研究に貢献できると考えられた。
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