研究課題/領域番号 |
21K09916
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柏木 陽一郎 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (20598396)
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研究分担者 |
和泉 自泰 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (70622166)
三木 康史 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (10598395)
沢田 啓吾 大阪大学, 歯学研究科, 特任研究員 (70733054)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 歯周病 / 糖尿病 / 腸内細菌叢 / 腸肝循環 |
研究実績の概要 |
歯周病が糖尿病に影響を及ぼすメカニズムについて、特にその糖代謝異常に対する具体的な修飾メカニズムに関していくつかの仮説が存在するも、まだその詳細は十分明らかにされていない。一方、ヒトの口腔内には、700種類以上の細菌がバイオフィルムを形成して棲息している。特に歯周ポケットに付着するバイオフィルムは、口腔衛生状態不良が続くと嫌気性菌の比率が増し、ディスバイオシスの状態となる。歯周病は、このディスバイオシスが原因となって生じる慢性炎症性疾患と捉えることが出来る。歯周病と全身をつなぐ経路としては、①局所の感染による菌血症、②慢性的に過剰産生された炎症性サイトカインの血流への流入、加えて、近年になって、③飲食時等に相当量の口腔内細菌が食道から消化管へと移行し、腸内細菌叢に変調をきたすことで、全身状態に影響する(eLife. 2019 ID: 30747106)と報告されてきた。 我々これまでに、糖尿病マウス(db/db)に対して、代表的な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg)を投与するモデルを応用した。その結果、体重に変化はなかったが、腸内細菌叢の変動と血糖の有意な上昇を見出ている。 本研究計画は、歯周病菌が他の食物栄養素と共に消化管へ到達する事により腸管部で細菌叢の平衡状態に変調をきたし、腸管内で特異的な代謝産物が産生されることで、肝臓での胆汁酸の産生と胆汁の十二指腸への分泌および腸内細菌により代謝された胆汁が再吸収されて門脈を経て肝臓に戻る腸肝循環のサイクルに異常をきたすことが、歯周病が腸管を介して肝臓での糖代謝異常に関与するメカニズムであるとの仮説をたて、それを検証することを具体的な目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、肝臓における代謝への影響について検討するために、同上モデルマウスから採取した肝臓を用いてプロテオーム・メタボローム両解析を行った。その結果、Pg投与群の肝臓におけるグリコーゲン量の減少と糖代謝の中間代謝物の増加およびクエン酸回路に関する酵素の減少が認められた。これらはグリコーゲン分解の亢進とミトコンドリア内のエネルギー代謝の低下を示しており、Pgの口腔からの嚥下により経腸管的に肝臓内における糖新生の亢進が惹起されていると考えており、研究は概ね順調に遂行されていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に用いている糖尿病マウスのPgモデルのPg投与群の肝臓において、胆汁酸合成の律速酵素CYP7Aの遺伝子発現の有意な上昇を認めている。胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され、胆汁の主成分として胆嚢・胆管を経て十二指腸に分泌され、小腸において脂質の吸収に重要な役割を果たしており、その分泌の多寡による腸内細菌叢への影響も報告されている。小腸、門脈、肝臓における胆汁酸の動態を分担研究者とともに測定し、肝臓における糖新生との関連について解析を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症蔓延の状況下であり、十分に研究を推進できる体制が整わない期間があったため、次年度繰越とした。次年度はマウス実験を前年度分も含め実施する予定である。具体的には歯周病菌を長期に嚥下させた糖尿病マウスの門脈血を採取し、研究分担者と協力し、メタボローム解析を行うことで、門脈内の特異的な代謝物を同定する。
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