研究課題/領域番号 |
21K09935
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野村 俊介 九州大学, 歯学研究院, 助教 (60710994)
|
研究分担者 |
高橋 一郎 九州大学, 歯学研究院, 教授 (70241643)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 炭酸アパタイト / 骨補填材 / 機械的強度 |
研究実績の概要 |
骨組成は炭酸基を7~9重量%含む炭酸アパタイトである。炭酸アパタイト骨補填材は自家骨に匹敵する骨伝導性を示し、自家骨と同様に骨リモデリングに調和して新しい骨に置換されるため、理想的な骨補填材となる可能性が高いが、荷重領域に応用するには機械的強度に難点がある。炭酸アパタイトは前駆体を用いた溶解析出反応で調製されるため、適切な前駆体の選択、前駆体の修飾によって機械的強度に優れる炭酸アパタイト骨補填材が調製される可能性が高い。本研究は、石膏を前駆体とする炭酸アパタイト骨補填材の機械的強度を飛躍的に高める因子を検討することである。 当該年度は①石膏の修飾が炭酸アパタイトの機械的強度に及ぼす影響の検討および②細胞実験方法の確立を行った。①に関してはプレス機を用いて、圧力を負荷した条件(修飾条件)で硫酸カルシウム二水和物を調製し、調製された前駆体については物性解析を行ったのち、リン酸炭酸混合溶液中に浸漬し、溶解析出反応で形態を保ったまま、組成を炭酸アパタイトに変換できるかを検討した。結果として圧力の負荷をあげるにつれて前駆体の強度は増加し、高圧力負荷をかけた前駆体は高い強度をもった炭酸アパタイトに組成変換することが分かった。 ②に関しては機械的強度の異なる炭酸アパタイト骨補填材の破骨細胞性吸収の解析を行う前に予備実験として、結果に有意差がでると考えられた異なる炭酸基量を含有する炭酸アパタイトディスク上で破骨細胞性吸収の評価方法を検討したが、サンプル間で優位な差が生じなかったため、ディスクではなく顆粒を用いた新たな評価方法を検討した。結果として実体顕微鏡を用いてTRAP染色された試料表面上の多核巨細胞の数および走査型電子顕微鏡を用いて試料表面に形成される破骨細胞による吸収窩数および吸収窩面積に優位差を認め、目的サンプルを測定する有用な方法であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、①石膏の種類および修飾が炭酸アパタイトの機械的強度に及ぼす影響の検討、②機械的強度の異なる炭酸アパタイト骨補填材の破骨細胞性吸収の解析、③機械的強度の異なる炭酸アパタイト骨補填材の骨伝導性および骨置換性の解析を行うことを目的とする。当該年度は圧力を負荷した条件(修飾条件)が炭酸アパタイト骨補填材の機械的強度に及ぼす影響の検討を行った。また細胞実験での評価方法の確立を達成した。次年度以降も機械的強度の向上に関して更なる検討を行うと同時に、本年度確立した評価方法での細胞実験および動物実験を開始する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は①引き続き石膏の修飾が炭酸アパタイトの機械的強度に及ぼす影響について更なる検討、②細胞実験、③動物実験を行う。①に関しては当該年度測定したものと異なる測定パラメーターを用い、作成したサンプルの機械的強度を検討し、更なる機械的強度の向上方法を検討する。具体的には前駆体の機械的強度と気孔率の関係、炭酸アパタイトの機械的強度と気孔率の関係、および前駆体と炭酸アパタイトの関係から、機械的強度の高い炭酸アパタイト骨補填材の調製に必要な構造因子を検討する予定である。②に関しては本年度確立した細胞培養法を用い、実体顕微鏡を用いてTRAP染色された試料表面上の多核巨細胞の数を測定、走査型電子顕微鏡を用いて試料表面に形成される破骨細胞による吸収窩数および吸収窩面積を定量化する。機械的強度が高い炭酸アパタイト骨補填材は気孔率が小さいことが予測され、気孔率の減少は破骨細胞性吸収速度の低下につながると予想されるため、機械的強度の異なる炭酸アパタイト骨補填材の破骨細胞性吸収速度を定量化することによって、組成因子以外の形状因子(気孔率)が破骨細胞性吸収に及ぼす影響の有無を解析する。また、動物実験にて機械的強度の異なる炭酸アパタイト骨補填材の骨置換速度を定量化することによって、組成因子以外の形状因子(気孔率)の影響の有無、および影響の程度を解析する。同時に、機械的強度(あるいは気孔率)が炭酸アパタイト骨補填材の骨伝導性に及ぼす影響も解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
【理由】本研究は、石膏を前駆体とする炭酸アパタイト骨補填材の機械的強度を飛躍的に高める因子を検討するとともに、作製した機械的強度の高い炭酸アパタイトが生体に及ぼす影響を細胞実験、動物実験で検討することである。当該年度は前年度購入した薬品と、既存の機器を用いて炭酸アパタイトの機械的強度に及ぼす影響の検討を行い、また既存の物品で細胞予備実験を進めることができた。次年度に本格的な細胞実験、動物実験を行うこととしたため、その分の費用を次年度に使用することとした。 【使用計画】次年度は細胞実験、動物実験を主に行う予定である。細胞実験では近交系ラットの大腿骨から骨髄細胞の細胞懸濁液を、また破骨細胞前駆細胞(RAW264:マウスの培養前駆細胞株)を使用する予定であり、また動物実験ではラット頭蓋骨への骨補填材埋入を予定しているため、細胞株および実験動物用費用がかかることが予想される。また、結果解析用のための機器、試薬の購入を予定している。また新たな機械的強度を向上させる方法を検討する場合、新たな機器を購入する予定である。
|