本研究では、Niを全く含まない非磁性ステンレス鋼として窒素固溶によるγ相を応用し、部品点数と製造工程の低減化を実現したクラッド加工のない高耐食性の閉磁路型歯科用磁性アタッチメントを開発すること進めてきた。 昨年度までの研究では、γ相の厚さを最適な磁気回路を形成するよう調整し、γ相の上部をレーザー溶接することで磁石構造体を製作した。直径3.5㎜の磁石構造体では、従来品と同等の吸着力を示したが、溶接後のビードにわずかなクラックを生じるものがあり、径を大きくすると歩留まりが低下する傾向を示した。そこで、製造過程における歩留まりの向上を目指し、γ相とα相の突合せ部に脱窒素を行ったα相を形成し、その部分を貼り代としたα相とγ相が共存した多層構造を持つ新しいシールドリングを考案した。 処理時間240分前後の範囲において、窒素固溶処理と脱窒素処理を効率的に行うため、処理温度を1150℃に下げて窒素固溶及び脱窒素処理を行い、処理時間を調整することで磁気回路に最適な多層構造のディスクヨークの製作に成功した。このディスクヨークを溶接し磁石構造体を作成したところ、直径5㎜のものでもクラックの発生はなく、歩留まりの改善ができた。 最終年度は、口腔内での安全性を担保するため、耐食性評価を行った。窒素固溶相のγ相単体では、SUS XM27よりも孔食電位がわずかに高い素材であったが、貼り代を付与したα相とγ相が共存する組織では、γ相の周囲に析出した金属間化合物Cr2Nにより、耐食性の劣化が生じた。そこで、準安定なγ相がα相と金属間化合物に分解しないよう冷却速度を増す実験を行い、50L/minの窒素顎冷却や水冷などの冷却を試みたが、耐食性の改善は十分にできなかった。改善後の耐食性は、現行の市販品よりも孔食電位が低く、SUS 316Lに準ずる値であった。
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