研究課題/領域番号 |
21K09968
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
庵原 耕一郎 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, ジェロサイエンス研究センター, 室長 (60435865)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 歯髄再生 / 歯髄再生誘導象牙質コーティング方法 |
研究実績の概要 |
私共は抜髄した歯の根管内に歯髄幹細胞を移植する歯髄再生治療法の開発を行ってきた。一方、感染根管は、治療しても予後が悪く、破折の原因になり、最終的に抜歯になることが多い。歯の喪失は低栄養、フレイルにつながる。感染根管治療に歯髄再生治療法を応用できると、歯の寿命を延ばし、最終的には全身の虚弱を防止できると考えている。しかし、一般的に用いられる水酸化カルシウムをイヌ根管内に適応した所、歯髄が再生されにくいという結果を得た。また、in vitroにおいても同様に象牙質に適応すると歯髄細胞の接着がみられなかった。これは象牙質の微小環境が変化したためと推察された。これより、感染根管において歯髄再生を行うには象牙質を再生に適した微小環境に整えることが必要であると考えられた。本申請において、感染根管治療薬剤による象牙質微小環境の変化検討し、再生阻害因子を明らかにする。また、この象牙質を再生に適した状態に誘導する因子を明らかにし、歯髄再生誘導象牙質コーティング剤を開発する。 2021年度は、歯髄再生を阻害しない貼薬剤を検討し、また阻害している場合その薬剤を歯質から除去するためにどれほど切削する必要があるかを検討した。この結果、水酸化カルシウム製剤がやや歯髄細胞に傷害があるものの、最も歯髄再生を阻害せず、歯質を一層ほど除去するだけで完全に取り除けられると考えられた。また、歯髄再生誘導象牙質コーティング剤の開発のため、象牙質よりEDTA抽出蛋白を採取して接着試験および象牙質誘導試験を行ったところ、それぞれ接着、誘導を促進することができた。2022年度はより、具体的な歯髄再生誘導象牙質コーティング方法を検討する。最終年度には感染根管モデルを作製し、一般に用いられている試薬を用いて感染根管治療を行ったのち、歯髄再生誘導象牙質コーティング剤を適応し、歯髄が再生できるかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感染根管治療に用いられる代表的な根管貼薬剤(水酸化カルシウム製剤、フェノール製剤、ホルマリン製剤)の毒性を調べるため、ろ紙に各薬剤を吸着させ培養歯髄細胞に適応した。この結果、水酸化カルシウム製剤は培養歯髄細胞に接した部分の細胞に壊死がみられた。一方、フェノール製剤、ホルマリン製剤は適応後1時間で培養細胞のほとんどが壊死した。また象牙質削片を各薬剤に24時間浸した後、1時間乾燥させたものを、培養歯髄細胞適応したところ、水酸化カルシウム、フェノール製剤は培養歯髄細胞に接した部分のみに細胞に壊死がみられた。一方、ホルマリン製剤は培養細胞の壊死がみられた。さらにイヌの根管に各根管貼薬剤を適応し24時間後に除去して、ラマンスペクトル解析を行い、薬剤がどの程度象牙質の内部に浸透しているかを解析した。この結果、水酸化カルシウム製剤、フェノール製剤はほとんど浸透せず、象牙質表面から8μm以内にのみ発現が見られた。一方、ホルマリン製剤は根管内部から歯全体に浸透していることが明らかになった。また、各貼薬剤の象牙質表面への影響を走査電子顕微鏡にて観察したところ、各製剤においてほとんど差が歯の表面にはみられなかった。 また、歯髄再生誘導象牙質コーティング剤を開発のため、象牙質成分の歯髄細胞分化誘導能を検討した。まずイヌ象牙質をEDTAにてタンパク質抽出をおこない、この成分を用いて脂肪細胞の歯髄細胞への分化誘導をおこなった。培養2週では歯髄のマーカーであるSyndecanやTenacin Cは測定されなかった。現在、培養期間をさらに延長して測定を継続している。また、象牙質EDTA抽出蛋白の初代歯髄細胞の培養皿への接着試験を行うと、象牙質EDTA抽出蛋白による接着促進効果が見られた。さらに象牙質EDTA抽出蛋白による歯髄細胞の象牙芽細胞誘導を行ったところ、象牙質マーカーの発現が促進された。
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今後の研究の推進方策 |
今回の結果により、根管貼薬は、傷害があるものの水酸化カルシウムを適応することが最もよいと考えられた。しかし、フェノール製剤も象牙質削片に適応したのち歯髄細胞に応用しても、影響を与えなかったことから、除去することで歯髄再生はできると考えられた。一方、ホルマリン製剤は歯髄再生治療を行う際には用いないほうが良く、使用している歯に対しては開発している象牙質のコーティング処置が必要であると考えられた。また、象牙質EDTA抽出蛋白は歯髄再生誘導象牙質コーティング剤として有用であると考えられた。これより今後はより具体的な歯髄再生誘導象牙質コーティング方法を検討する。 まず、今年度はin vitroにおいて薬剤を根管内に適応後、水酸化カルシウム製剤およびフェノール製剤に対しては表層のみ薬剤が浸透していると考えて、根管貼薬を行ったのち、根管拡大をKファイルにて象牙質を1層のみ切削する。除去後、歯髄細胞を適応し、細胞が接着できるかを確認する。ホルマリン製剤を使用した根管に対しては、変性した象牙質基質に対して、象牙質EDTA抽出蛋白およびFibronectinやCollagenなどの接着を促進できると考えられる因子を塗布して、歯髄細胞の接着を促進できるかを検討する。また、象牙芽細胞分化誘導実験を行い、歯髄・象牙質に誘導に最適な方法を明らかにする。 最終年度にはビーグル犬を用いて感染根管モデルを作製し、水酸化カルシウム製剤、フェノール製剤、ホルマリン製剤等、臨床において一般に用いられている試薬を用いて感染根管治療を行う。治療後、前年度に開発した歯髄再生誘導象牙質コーティング剤を適応し、歯髄幹細胞をG-CSFとコラーゲンと共に移植して、抜髄根管治療と同様に歯髄が再生できるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、外部依頼試験ラマンスペクトル解析に時間を要し、かつ解析価格が予定より安価であったため使用額に残金が生じた。これを次年度研究計画の物品購入に充てる計画である。
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