研究課題/領域番号 |
21K09983
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
向坊 太郎 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (50635117)
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研究分担者 |
近藤 祐介 九州歯科大学, 歯学部, 講師 (00611287)
宗政 翔 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (40852489)
細川 隆司 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (60211546)
正木 千尋 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (60397940)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 口腔乾燥症 / ドライマウス / ムチン / 高齢者 |
研究実績の概要 |
ドライマウス(口腔乾燥症)に罹患している患者数は日本国内で約800万人以上と推定されている.口腔乾燥は摂食・嚥下機能の低下や誤嚥性肺炎のリスクとなる だけでなく,義歯の維持力低下や補綴処置歯の根面カリエスの多発による咬合崩壊など高齢者においては補綴治療後のトラブルの一因となる.口腔乾燥症の診断には唾液分泌量の低下に加え,患者の主観的な口渇感が指標とされているが,唾液分泌量が正常であるにも関わらず,口渇感を訴える患者が一定数存在する.我々はこの原因に加齢による唾液中ムチンの変化が関与しているという仮説を立て研究を行った.唾液中ムチンは唾液に粘弾性を与え,水分を保持する重要な役割を担っている.本研究の目的は高齢者における唾液の粘弾性を含むレオロジー性質の変化を調査し,ムチンとの関連を明らかにすることとした.研究方法として,老齢マウス(27ヶ月齢,108週齢)と若齢マウス(12週齢)の舌下腺唾液を使用し,分泌唾液のレオロジー性質を曳糸性測定器 (Neva meter)を用いて調査した. 研究の結果老齢マウスでは若齢マウスと比較して唾液の曳糸性(Spinnbarkeit)が有意に低下していることが明らかになった. その後の調査で唾液分泌中のムチン濃度に両者に差はなく,曳糸性(Spinnbarkeit)の低下はムチンに付加されるシアル酸構造の変化によるものと推定された.これらの結果は学会発表および論文の出版により広く公開した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
老齢マウスを用いた動物実験により,唾液性状の加齢変化とそのメカニズムを明らかにすることができた.これらの成果は国際学会,国内学会でそれぞれ1回ずつの発表と,Journal of Dental Researchへ論文を掲載した(Yamada M, Masaki C, Mukaibo T, Munemasa T, Nodai T, Kondo Y, Hosokawa R. 2022. Altered rheological properties of saliva with aging in mouse sublingual gland. Journal of dental research.). これらの研究成果を踏まえ,ヒトにおける分泌唾液のレオロジー性質と口腔乾燥症との関連を臨床研究によって示す必要があると考え,現在若齢者と高齢者の安静時唾液および刺激時唾液を採取し,ムチン濃度とムチンタンパクであるMUC7とMUC5Bの発現をウエスタンブロット法を用いて調査している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究により加齢変化による唾液のレオロジー変化とそのメカニズムについて一端を明らかにすることができた.しかし,唾液腺に発現するムチンタンパクはマウスを含む齧歯類とヒトを含む霊長類で大きく異なっていることが明らかになっている.例えば齧歯類において分泌型ムチンは舌下腺から分泌されるMUC19が唯一のムチンタンパクであるのに対し,ヒトでは分泌型ムチンが舌下腺に加え顎下腺からも分泌され,ムチンタンパクもMUC7とMUC5Bと2種類で,タンパク一次構造も分子量も齧歯類のMUC19とは異なっている.本研究ではMUC19のシアル酸構造が老齢マウスで低下した結果,唾液のレオロジー性質が変化した可能性が示唆されたが,今後ヒトMUC7とMUC5Bで同じ現象が起きているか,また加齢により唾液レオロジー性質やムチンが変化することによる臨床的意義は何かを臨床研究により明らかにする必要があると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度使用予定であった消耗品の輸入がコロナウイルスとウクライナ情勢の影響により遅滞したため. 次年度入荷次第直ちに使用し,研究を完遂する.
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