本研究では、口腔乾燥症発症時の口腔粘膜における感覚異常発症機構を解明する目的で、ラットの大唾液腺を摘出したSGEモデルラットを作製し、行動学的、免疫組織学的手法を用いて研究を行った。 口腔乾燥によって動物の飲水量増加が示されていることから、14日間の飲水量を継続して記録したところ、SGE群ではSham群と比較して有意な飲水量の増加を認めた。摂水量を体重の20%量に制限しても、両群ともに体重増加率に有意な差を認めなかった。また、口腔内の湿潤度をフェノールレッド糸によって測定したところ、SGE群ではSham群と比較して有意な湿潤度の低下が認められた。 次に、口腔粘膜に感覚異常が発現しているか否かを観察するために、左側下顎門歯歯頸部から3mm下方の粘膜部にデジタルフォンフレイによって機械的刺激を、熱刺激プローブによって熱刺激をそれぞれ与え逃避閾値反射を測定したところ、両刺激ともSGE群はSham群と比較して有意な逃避閾値の低下を示した。活性酸素種(ROS)による生体損傷に鋭敏な反映をするバイオマーカーである8-OHdG、機械刺激で活性化するイオンチャネル受容体であるTRPA1のマーカーをそれぞれ用いて、口腔粘膜部および三叉神経節内の局在を免疫組織学的に観察した。三叉神経節細胞のTRPA1およびTRPV1の発現状態は、SGE群、Sham群およびNac(ROSのinhibitor)投与群間の比較において、それぞれ陽性細胞数の発現に差が認められなかった。一方、口腔粘膜部では、SGE群ではSham群およびNac投与群と比較して有意な8-OHdGの発現と、TRPA1陽性を示す軸索が多く観察された。以上から、大唾液腺切除による口腔乾燥によって、口腔粘膜部の感覚異常が発生する可能性が行動学的観点から示され、口腔粘膜部ではROSが関与している可能性が高いことが免疫組織学的観点から示された。
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