研究実績の概要 |
【目的】咬合不調和は, 末梢におけるサイトカインやステロイドホルモンの分泌や交感神経の活性化促進ばかりでなく, 中枢神経における神経伝達物質の放出にも影響を与えることが報告されている. しかしながら, 咬合不調和が認知能力に対してどの様な影響を与えるか明らかではない. そこで, 我々は咬合性不調和の1要因である過剰咬合が認知能にどの様な影響を与えるか、さらに認知症誘発物質の発現が関与するか、この発現に炎症性サイトカインの発現が関与するか、アルツハイマー型認知症(AD)モデルマウスを用いて調べた。 【方法】2ヶ月齢と6ヶ月齢のADマウスを使用して無処置(コントロール)群, 過剰咬合を負荷後1週間群, 及び4週間群に分け, 認知能を行動科学的実験にて認知能を評価した. 同時に, 海馬におけるアルツハイマー型認知症関連分子の発現変化と局在性の違いに関してWestern blottingおよび免疫染色法を用いて調べた. また, 炎症性サイトカインの発現変化について比較、検討した。 【結果】1. 過剰咬合負荷は2ヶ月齢のADマウスの認知能力を一過性に低下させ、同時に血清中のIL-1βの一過性の濃度上昇とアルツハイマー病(AD)の発症関連分子の発現を伴った。 2. ADを発症した6ヶ月齢ADマウスでは既に認知能の低下が認められ、過剰咬合負荷に依存した有意な認知能の低下は認められなかった。さらに、AD発症関連物質の基礎発現量が高く、過剰咬合による有意な変化は認められなかった。 以上より、咬合不調和はAD発症誘発の1つのリスクファクターになり得る可能性があると考えられた。
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