本研究では,歯科金属アレルギーの病態形成の中で,最初に金属が付着する皮膚や粘膜上でのセマフォリン3A(semaphorin 3A; Sema3A)を中心とした免疫反応に着目し,その発現を調節することで金属アレルギーの発症そのものを制御することを試みることを目的としている.昨年度までに,金属アレルギーモデルマウスおよびSema3Aコンディショナルノックアウトマウス(cKOマウス)を用いた実験で,ケラチノサイトのSema3A欠失はNiアレルギー発症自体には大きな影響を与えないこと,Sema3AがTh2反応ではなくTh1反応を誘導することを明らかにしている. そこで,さらに詳細に解析を進め,Niアレルギー誘発モデルマウス耳介皮膚組織ではTNF-α,IL-1β,IL-23,CXCL1などの炎症性サイトカインおよびケモカインのmRNA発現レベルが亢進しているのに対して,Sema3AcKOマウスではいずれも抑制されていることが明らかとなった.皮膚上皮シートの免疫組織科学解析およびフローサイトメトリーで金属アレルギー発症時の炎症部位への細胞の遊走を観察したところ,CD11b+CD115+単球,CD11b+F4/80マクロファージ,およびCD11c+MHC class Ⅱ+樹状細胞の浸潤に有意な差はみられなかった.また,耳介皮膚腫脹量は,Sema3AcKOマウスで減弱した. 本研究の結論として,ケラチノサイトに発現するSema3Aは,Niアレルギーの発症そのものには影響を与えないが,症状の強さには影響を与えることが明らかとなった.さらに本研究を進めることにより, Sema3Aが金属アレルギーの予防と治療のターゲットとなり得る可能性が示唆された.
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