従来、口腔扁平上皮癌(OSCC)は、口腔白板症(OLK)や口腔紅板症(OEP)、口腔扁平苔癬(OLP)などの口腔潜在的悪性疾患(OPMDs)が生じ、その後、様々なゲノム・エピゲノム異常が段階的に蓄積する「multistep carcinogenesis」により発生するとされてきた。しかしながら、日常臨床で遭遇頻度の高いOLKやOLPでも数%の発癌に過ぎないため、切除か経過観察かの判断は施設ごとに異なり、統一された治療指針がない。近年の全遺伝子エキソーム解析にて、頭頸部癌には限られたドライバー遺伝子の変異が発癌を誘発することが証明された。この結果は、OPMDsの段階でドライバー遺伝子の変異を検出できれば、経過観察の厳重化や OSCCの超早期発見・超早期治療につながる可能性を示唆しているが、OPMDsにおいてドライバー遺伝子のみを解析した報告はない。そこで、本研究では、OPMDsにおいてドライバー遺伝子の変異を監視する新規治療戦略を開発することを目的とした。本年度はさらに症例を追加し、過年度と併せてOLP27例、OLK14例におけるドライバー遺伝子の変異解析を行った。その結果、OLP1例(1/27; 3.7%)においてTP53のミスセンス変異が、OLK4例(4/14; 28.6%)において、NOTCH1、PIK3CA、HRASのミスセンス変異とTP53のナンセンス変異が重複あるいは単独で認められた。興味深いことに、これらのOLK症例はいずれも病理組織学的にはドライバー遺伝子変異のない症例と同様の軽度から中等度の上皮異形成であった。一方、OLPでTP53変異が検出された唯一の症例は、経過観察中にOLK様の病態に変化し、病理組織学的にも上皮異形成に進展していた。以上より、OPMDsにおけるドライバー遺伝子の監視は、早期切除や経過観察の厳重化を決定する要素になりうることが示唆された。
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