研究課題
口腔扁平上皮癌 (Oral squamous cell carcinoma: OSCC) は口腔癌の80%を占める疾患で、医療技術の進歩にも関わらず治療成績の劇的な向上には至っていない。OSCCの予後規定因子として“転移”は最も重要な因子の一つである。転移の成立には腫瘍細胞が有する浸潤・転移能のみならず、転移臓器における微小環境調整によって“前転移ニッチ”を形成する能力も重要であることが明らかとなっている。近年、“エクソソーム”が転移臓器の“前転移ニッチ”の形成を制御し、転移の成立に深く関わることが明らかとなってきた。本研究では、OSCCの転移成立・維持におけるエクソソームを中心とした新たな分子機構の解明を目指して解析を行っている。2021年度は全期間を通してコロナ禍の影響で研究資材、人員の調達が予定通り進まず、研究計画の変更を余儀なくされた。特に動物実験については計画通り行えなかった。したがって、2021年度上半期は転移形成に関わるエクソソーム由来miRNAを探索することとした。OSC-19(高転移性OSCC細胞株)/SAT(低転移性OSCC細胞株)、転移陽性OSCC患者由来PDX細胞株/転移陰性OSCC患者由来PDX細胞株の各ペア、更に、当科で保存している非転移例、転移症例の血清サンプルからエクソソームを抽出し、特徴的miRNAプロファイルを明らかにした。結果的に45個のmiRNAの抽出に成功した。2021年度下半期からは、高転移性OSCC細胞から抽出したエクソソームをマウス尾静脈から注入し、蛍光標識したOSCC細胞の同所移植モデルの転移様相を検証する実験系を確立に努めた。投与するエクソソーム量、OSCC細胞の転移時期の確認などの予備実験を終了し、2022年度以降の本格的な動物実験開始を可能とした。
3: やや遅れている
社会情勢から、実験資材、人員の確保に苦慮したため、やむを得ず実験計画を一部変更し、in vitroの実験系から開始した。2021年度下半期からは動物実験を本格的に開始するための準備に資材、人員を充てることが可能となった。やや計画に変更があったものの、本研究課題の根幹を成す、転移形成に関わるエクソソーム由来miRNAの抽出には成功した。
2022年度については、当初の予定通り動物実験においてエクソソームによる前転移ニッチ形成のメカニズムについて解析を進める。具体的には、以下の通りである。高転移性OSCC由来エクソソームが転移臓器にどのように分布するか、転移能にどのような影響を与えるかを明らかにするために、高転移性OSCC細胞から抽出したエクソソームを蛍光色素PKH67などで標識し、マウスモデルにて経静脈的に投与して各臓器への取り込みを評価する。また、GFP発現OSCC細胞株を用いた同所移植モデルで高転移性OSCC由来エクソソーム処理後の転移能の変化を評価し、転移臓器の組織サンプルを解析し、エクソソームの臓器指向性、転移形成能や前転移ニッチ形成に与える影響を検証する。2021年度で既に、実験遂行に必要な資材、人員は確保しており、遂行には問題ないと考えられる。
コロナ禍などで予定していた学会への参加取りやめなどがあったことから、旅費・学会参加費などを使用しなかった。次年度は、当該予算として使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of extracellular vesicles
巻: 10 ページ: e12169
10.1002/jev2.12169.