研究課題/領域番号 |
21K10055
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
片倉 伸郎 愛知学院大学, 歯学部, 研究員 (20185804)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | NMDA / 舌下神経運動ニューロン / ギャップ結合 / propofol |
研究実績の概要 |
静脈内鎮静法では、麻酔深度が深まると舌根沈下が観察される。その特徴は、呼吸活動が維持されているにも関わらず気道の維持に関わる舌筋群の緊張が低下するという活動性の乖離があげられる。本研究では、このような舌根沈下を招く原因が、① 呼吸筋群支配運動ニューロン群と、② 気道維持に働く上気道壁を形成する筋群を支配する運動ニューロン群との活動度の差異があると考え、舌筋群の筋緊張性がどのような機序で維持され、どのような条件で低下するかを、ニューロンとその周囲を取り巻くグリア細胞を加えた『ニューロン-グリア連関』の視点で解析することを目的とする。 本年度は、前年度に導入したW-Tg (S100b-EGFP) Scell系統の遺伝子組換えラットを利用した光学実験系による脳幹スライス標本を用いて、舌下神経核や扁桃体中心核を含めた脳領域で研究を進めた。 NMDA投与によってリズム活動の出現する舌下神経運動ニューロン (XIIm) に TTX (tetrodotoxin)を投与すると、① リズム膜電位変動と重畳する群発発火が消失するXIImと、② 重畳する群発発火は消失するがリズム膜電位変動が残存するXIImの2群が観察された。② に対してcarbenoxolone (CBX) を投与すると、③ リズム活動が維持されるXIIm、④ 膜電位変動が消失するXIImの2群が観察された。③は、リズム活動の維持にニューロン間あるいはニューロン-グリア細胞間に電気的結合が必要なXIImと推測される。 加えて、本年度は扁桃体中心核ニューロンを含むスライス標本を用いて行い、静脈鎮静法で用いられるpropofolのニューロンの発火活動に対する薬理学的検証を行った。その結果、扁桃体中心核では、propofolによって活動性を減弱するだけでなく増加させるニューロンが観察されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
W-Tg (S100b-EGFP) Scell系統の遺伝子組換えラットの脳幹スライス標本を用いることによって、ニューロン-グリア連関を解析する上で、ニューロンとグリア細胞との判別が容易になり、グリア細胞を同定した上でFluo-3等を用いた細胞内カルシウムイオン濃度変動の光学測定が可能となった。一方、TTXで活動電位の発生を抑制した上でギャップ結合を薬理学的手法で遮断すると、NMDA投与によって誘発されるリズム膜電位変動が観察されるXIImがあることが判明し、今後の研究遂行の方向性を示すことができた。さらに、静脈鎮静法で用いられるpropofolには、ニューロン活動を抑制するだけでなく増強する可能性があることも示唆される観察結果も得られたことは興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、W-Tg (S100b-EGFP) Scell系統の遺伝子組換えラットを用いた実験系の有用性が確認されたことから、今後は、パッチクランプ法を用いた電気生理学的解析方法に、膜電位変動や細胞内カルシウムイオン濃度変動の観察に複数の蛍光色素を用いた光学測定を併用し、ニューロンーグリア連関の視点からXIImの活動を分析するとともに、静脈鎮静法に用いられるpropofolやmidazolamの効果を検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
調達を予定していた薬品の一部が年度内に未納品だったため、次年度使用額が生じた。当該品は2023年度に納入予定であり、2022年度の使用計画に大きな変更はない。
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