研究課題/領域番号 |
21K10063
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
横山 三紀 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (70191533)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 口腔がん / シャペロン依存性オートファジー / Rac / 浸潤 / 細胞運動 |
研究実績の概要 |
口腔がんの頸部リンパ節や遠隔臓器への浸潤・転移を阻止する新戦略が求められている。がん細胞の浸潤・転移は上皮間葉移行による高い運動性の獲得によって亢進する。シャペロン依存性オートファジー(CMA)は標的となるタンパク質がシャペロンタンパク質に認識されリソソームに運ばれて分解されるタンパク質分解経路である。代表的なタンパク質分解経路であるマクロオートファジーを介したリソソームによる分解、ユビキチン化を介したプロテアソームによる分解と比較すると、CMAでは分解されるタンパク量は少ないが分解の特異性が高いという特徴をもつ。近年、がん細胞において代謝や増殖の制御に重要な因子がCMAにより分解されることが明らかになっている。しかしCMAの浸潤・転移への関与は不明である。申請者は口腔扁平上皮がん細胞においてCMA必須因子であるLAMP-2を欠損させると運動性が低下し、反対にLAMP-2を強制発現させると運動性が亢進することを見出している。本研究では細胞運動に必要なRac/Rhoの活性化制御因子のCMAによる分解に着目し、間葉系遊走の制御におけるCMAの関与を解明する。それによりCMAが、がんの浸潤抑制のための創薬の新たな標的となる可能性を探る。今年度ではLAMP2を欠損させた口腔がん細胞を用いて、細胞運動開始の初期段階であるRac活性化による仮足の進展におけるLAMP2の関与を評価した。またCMAの分子機構に関してLAMP-2とシャペロンタンパク質Hsc70との相互作用の解析をおこない新たな知見を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞運動は細胞骨格であるアクチン繊維の形状の変化により引き起こされる。この変化はRhoファミリー低分子量Gタンパク質 (Rac, Rho)に制御される。第一段階はRacの活性化による仮足の伸長である。Cell Spreading Assayはトリプシン消化により培養容器から剥がした細胞をコラーゲンコートしたカバーガラスの上に播種し、一定時間後に固定して接着面の面積を計測するものである。仮足が形成されると面積が広がることから、Cell Spreading AssayはRacの活性化の指標として用いられる。今年度では複数の口腔がん細胞において、LAMP-2を欠損させた場合に接着面積が変化することを見出した。この結果からCMAがRacの活性化に関与する可能性が示唆された。 また今年度は本研究を進める上での基礎となるLAMP-2とシャペロンタンパク質Hsc70との相互作用の解析もおこなった。LAMP-2はタンパク質の大部分がリソソームの内腔側に存在し、細胞質側にわずか11アミノ酸残基の短いペプチド部分を突き出している。細胞質側のペプチド部分はHsc70と分解対象のタンパク質との複合体をリソソーム膜に動員する足場と考えられてきたが、ペプチド部分とHsc70との直接の相互作用は証明されていなかった。そこでLAMP-2の細胞質側のペプチド部分に光反応性の架橋部位を導入したところ、Hsc70との間に架橋が形成され、直接的な相互作用を初めて証明することができた。LAMP-2の内腔側には相同な二つのドメインが存在するが、その片方を欠失させるとHsc70との共沈量が顕著に低下した。この結果からHsc70の動員にはLAMP-2の内腔側の構造が関与することが示唆された。この結果をExperimental Cell Research [411 (1):112986 (2022)]に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はCell Spreading Assayにおいてカバーガラスと細胞の接着面の面積からRac活性化におけるLAMP-2の役割を検討した。今後は、Rac活性化をより直接的に評価するために、Racが活性化される条件で蛍光強度が変化するバイオセンサーを利用した評価を進めたい。またRacの活性制御因子の中でCMAにより分解される可能性のある分子種について、実際に分解の有無を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
Rac活性化を評価するバイオセンサーを用いた実験への移行が遅れたため。
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