令和5年度は、令和3・4年度と同様にマウス口腔癌細胞株であるSq1979細胞(NR-S1)を用いて解析を行った。この細胞を舌に接種した担癌マウスモデルにシスプラチンを尾静脈から投与し、その後、腫瘍を切除し、組織学的検討、タンパク質、遺伝子発現解析を行った。 舌に形成した腫瘍においてシスプラチン投与群は非投与群に比較して、腫瘍間質に流入するM2-TAMが増加し、腫瘍間質のコラーゲン形成も増加していた。さらに、切除した腫瘍組織からタンパク質を回収し、シスプラチンにより誘導された炎症性サイトカインを網羅的に解析する目的でAntibody-arrayを行った結果、シスプラチン投与群は非投与群に比較してCCL5やIL13などの発現上昇を認めた。これらは細胞老化により分泌されるSASP関連因子であり、シスプラチンによる癌細胞の細胞老化が関連していることが示唆された。そのため、担癌マウスモデルにシスプラチンに加え、細胞老化を誘導するp21に対する阻害剤を投与し、癌細胞の細胞老化を抑制することにより、腫瘍間質のコラーゲン形成も減少することを見出した。 以上の結果から口腔癌に対する癌薬物療法により、CCL5やIL13などの炎症性サイトカインが増加し、腫瘍内にM2-TAMが増加することによりコ ラーゲン上昇などの組織構造変化をもたらされており、これには癌細胞の細胞老化が関与している可能性が示唆された。 現在、これらの結果を英文雑誌に投稿準備中である。
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