研究実績の概要 |
我々はテロメアDNA構造に高い結合特異性をもつ環状アントラキノン(cyclic anthraquinone;cAQ)が、培養細胞レベルで正常細胞よりも癌細胞に対して強い増殖抑制効果を示すことを確認してきた。今回cAQの抗腫瘍効果および安全性について個体レベルで検討した。5週齢KSN/Slcヌードマウスの背部皮下にSAS細胞を移植した担癌モデルにおいて、0.003 mmol/kgのcAQ、0.03 mmol/kgのCDDPまたは生理食塩水を隔日で計5回腹腔内投与し、抗腫瘍効果を検討した。一方、非担癌マウスでも担癌モデルと同様の薬物投与を行い、毒性について生化学的及び病理組織学的に解析した。また、5週齢(約120g)の雌雄のラット各3匹に対して1000mg/kg用量で単回静脈内投与し,投与後 14日まで一般状態の観察及び体重測定を行い,観察終了後に病理学的検査を実施した。なお、性差の検討および科学的な評価を行うために雌雄各3匹のラットを用いた。本研究は, 九州歯科大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号 17-004)。cAQおよびCDDP投与群において、いずれも有意な抗腫瘍効果を認めた。一方、CDDP投与群では体重が減少し、血清生化学検査から腎臓および肝臓の機能異常が示唆されたが、cAQ投与群では対照群との相違を認めなかった。またCDDP投与群では腎臓、肝臓および精巣に既知の異常所見を認めたが、cAQ投与群による組織学的変化を認めなかった。静脈内投与を行ったラットはコントロール群と比べて明らかな異常所見を示さなかった。cAQはマウス個体レベルでも抗腫瘍効果を示し、かつCDDPと比較して正常組織への毒性が低く、安全性の高い新たな抗腫瘍薬開発に貢献することが期待される。
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