研究課題/領域番号 |
21K10081
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
三枝 禎 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (50277456)
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研究分担者 |
小菅 康弘 日本大学, 薬学部, 教授 (70383726)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 慢性痛 / オレキシン / ドパミン / 脳微小透析法 / 側坐核 |
研究実績の概要 |
本研究では実験動物(ラット)を用い,顎顔面領域を含む身体の慢性痛が脳内のdopamine(DA)神経伝達に及ぼす影響について神経化学・行動学実験で検討している。これまでに研究代表者らは,生理的な状態ではorexin神経が中脳辺縁系DA神経の主たる投射領域の側坐核に分布するOX2受容体を介して同部位の基礎的なDA放出を抑制的に制御することを報告した(Kawashima et al., Eur. J. Neurosci., 55, 2022)。また,炎症性疼痛モデル動物ではOX2受容体antagonistのEMPAの側坐核への灌流投与が誘発した同部位の細胞外DA量の増大が低下することを日本薬理学会関東部会等で発表した。 本計画では,炎症性疼痛のほか神経障害性疼痛のモデル動物を採用しており,いずれもvon Freyフィラメントによる機械刺激からの回避行動が起こる閾値が低下することを確認している。当該年度は,各モデル動物の痛み様の症状の特徴を明らかにするため,作用機序が異なる鎮痛薬のmorphine(opioid受容体を作用点とした麻薬性鎮痛薬)とmeloxicam(COXを作用点とした酸性非ステロイド性抗炎症薬)の全身投与が刺激閾値の低下に及ぼす影響を解析した。その結果,機械的刺激により誘発された回避行動発現の閾値の低下を,morphineは炎症性疼痛だけでなく神経障害性疼痛のモデル動物でも抑制したのに対し,meloxicamは炎症性疼痛とは異なり神経障害性疼痛のモデル動物では抑制できなかった。以上の鎮痛薬が各モデル動物で示した効果から,本計画の実験条件下で観察された慢性痛様の症状の発症の背景は異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,慢性痛が脳内のDA神経伝達に及ぼす影響について神経化学・行動学実験により検討している。当該年度は,炎症性疼痛および神経障害性疼痛のモデル動物に見られるこの痛み様症状の生物学的背景の特徴の一端を明らかにするため,麻薬性鎮痛薬のmorphineと酸性非ステロイド性抗炎症薬のmeloxicamが機械的刺激により誘発される回避行動に及ぼす影響を解析した。その結果,本計画の実験条件の機械的刺激により誘発される回避行動発現の閾値の低下を,morphineは炎症性疼痛だけでなく神経障害性疼痛のモデル動物でも抑制したのに対し,meloxicamは炎症性疼痛とは異なり神経障害性疼痛のモデル動物では抑制できなかった。以上の鎮痛薬が各モデル動物で示した効果から,本実験条件下で観察している慢性痛様の症状は発症の背景が異なることが示唆された。これらの行動実験の成果は,これまでの神経化学実験の結果と合わせて令和4年11~12月に横浜で行われた日本薬理学会年会で発表できた。このため,計画の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者らはラットの側坐核でorexin神経がOX2受容体を介して基礎的なDA放出を抑制的に制御することを海外学術誌に発表している(Kawashima et al., Eur. J. Neurosci., 55, 2022)。また,OX2受容体antagonistのEMPAの側坐核への灌流投与が誘発した同部位の細胞外DA量の増大が,炎症性疼痛モデル動物では低下することを日本薬理学会の関連集会で報告してきた。当該年度はこのEMPAの効果がOX2受容体を介したものであることをagonist(orexin-Bなど)の併用投与実験を行って確認する。さらに神経障害性疼痛モデル動物において側坐核の細胞外DA量にorexin受容体系薬物が及ぼす効果についても検討を加えることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験が終了したため,88,392円を使用せずに残した。 使用計画 次年度に繰り越す88,392円は実験のための物品費として使用することを計画しており,実験動物,試薬HPLC消耗品の購入に充てる。
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