2015年にThe Cancer Genome Atlas (TCGA) から頭頸部癌における包括的ゲノム特性についての報告がされた。しかしながらセラミド代謝酵素を標的にした報告はない。研究代表者は、プロテインキナーゼC (PKC) を分子標的とするsafingolを用いて口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞のcaspase非依存的アポトーシス誘導機構を解明した。その後、safingolはスフィンゴ脂質代謝物sphingosine-1-phosphate (S1P)を生成するsphingosine kinase 1 (SphK1) を阻害することも判明したため、SphK1選択的阻害剤PF-543の研究に着手した。S1Pはシグナル伝達物質で、細胞膜上のレセプターを介して細胞増殖ならびにプログラム細胞死を制御するシグナル伝達物質で、頭頸部癌をはじめ多くの癌で高発現している。 TCGAのデータを「sphingosine」をキーワードに検索したところ、37の遺伝子が同定された。また、Kaplan-Meier法により予後との関連を検討したところ、11の遺伝子(ASAH2、ASAH2B、CERS5、EZR、KDSR、PLPP3、SGPP1、SPHK2、SPNS3、S1PR4)が抽出された。これらのうち、治療のターゲットになりやすい、正常組織と腫瘍組織で有意差の認めたものは、5遺伝子あり、CERS5、PLPP3、SGPP1、SPNS3、S1PT4であった。さらに、PF-543を各種口腔扁平上皮癌細胞株(Ca9-22細胞、HSC-3細胞)に処理し、シークエンス解析を行ったところ、アポトーシス、オートファジー、ネクローシスに共通した経路としてNOD-like receptor signaling pathwayとnecroptosisがあった。
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