研究実績の概要 |
血管内皮機能を制御・保護すると言われているグリコカリックス(GCX)の形態把握には,ランタン灌流固定後の電子顕微鏡観察が一般的であるが,ヒトへの応用は困難である.そこで我々が確立したアルシアン青(ALB)浸漬固定によるマウス腎組織のGCX観察法を応用し,灌流固定が困難な肺を浸漬脱気固定してGCX観察する方法を確立し,ヒト肺への応用を目指している. 10週齢 雄 BALB/Cマウス肺を摘出・細切後, ALB固定液で浸漬固定・脱気した試料を走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)で観察した.確立した方法を用いて,LPSを腹腔内投与した敗血症マウスの肺GCXをSEM/TEM下で健常マウスの形態と比較検討した. 定法で観察した肺GCXと同様に,本法でも血管内腔にGCXが薄く全周性に存在していた.脱気前後の肺内部の微細構造を比較検討でも,脱気操作による肺組織への影響は認められなかった.更に臨床応用のため,6日間必要であった試料作製から観察までの期間を2日間に短縮した.作製した敗血症マウスではLPS投与後12時間で,GCX脱落マーカーであるシンデカン-1が最も高値となり,GCXは肺血管内で球状に凝集し,散在している様子が観察された. 本法を用いることで,浸漬固定した肺組織のGCXが2日間で観察可能となり,ヒト肺検体への応用が期待される.また健常マウスと敗血症マウスで肺GCXの状態に明瞭な差が認められた.今後,本方法が敗血症などの病態解明の研究推進の一助になることを期待している.
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