研究実績の概要 |
長期間にわたる矯正歯科治療は、う蝕や歯周病などの発生に関与するため、治療期間の短縮が望まれており、歯槽骨骨改造を亢進させることが重要であると考えられている。低出力超音波パルス (LIPUS) は、骨折治療器として臨床応用されており、骨形成作用を有することが報告されているため、矯正学的歯の移動時における骨改造を亢進させる可能性が示唆されるが、そのメカニズムは不明である。本研究では、矯正学的歯の移動時における低出力超音波パルスの効果を解明することを目的とし、in vivo, in vitroからのアプローチにより分子メカニズムの解析を行う。本年度は、7週齢のC57BL/6マウス用いて0.012インチのNI-Tiワイヤーにて右側上顎第1臼歯を14日間、口蓋側に移動させ、矯正学的歯の移動時の歯根膜における電位依存性ナトリウムチャネルアルファサブユニット(SCN7A)とベータサブユニット(SCN3B)の発現と骨改造に関与する骨吸収との関係を免疫組織化学的および組織学的に解析した。その結果、第1臼歯周囲の歯根膜においてSCN3B陽性の神経線維は、対照群ではほとんど認められなかったが、矯正学的歯の移動開始5日目には圧迫側歯根膜において増加し、吸収窩に存在するTRAP陽性多核細胞に近接しているものも認められ、これらの神経線維はCGRP陽性であった。その後、歯の移動開始7~14日にはSCN3B陽性神経は減少した。一方、SCN7A陽性神経は、圧迫側において矯正学的歯の移動により減少していた。以上より、SCN3Bは、矯正学的歯の移動時において侵害受容伝達に関与し、破骨細胞活性を調節している可能性が示唆された。
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