研究課題
歯科矯正治療中の患者の大半が歯の移動による疼痛を感じているが、その詳細なメカニズムは明らかではない。治療時に歯周組織で生じる様々な変化がすべて矯正力という機械刺激に起因するにも関わらず、歯周組織においてどのような経路を介して機械刺激が受容され疼痛発症に寄与しているかは不明である。歯根膜細胞は機械刺激によりATPを細胞外に放出し、歯列矯正の疼痛と骨リモデリングへの関与が指摘されているが、機械受容分子は特定されていない。また侵害受容に関わるとされるPIEZOチャネルは機械感受性を持つことが知られている。本研究では、ヒト歯根膜線維芽細胞(HPdLF)におけるPIEZOチャネルの機能及び発現を調べることでPIEZOチャネルを介した歯の移動に伴う疼痛発症機序を解明することを目的とした。前年度までに、HPdLFではPIEZO1 mRNAが PIEZO2 mRNAよりも豊富に発現し、HPdLFのPIEZO1染色で細胞全体に陽性反応を示すことが明らかとなった。またPIEZO1アゴニストYoda1は、細胞内Ca2+濃度と細胞外ATP濃度を用量依存的に増加させ、ATP放出は機械受容チャネル阻害薬およびATP放出経路の阻害剤によって阻害された。矯正力を想定したin vitro圧力負荷細胞モデルでは、HPdLFは圧力に応答してATPを放出した。令和5年度はHPdLFのPIEZO1の機能を解明するためのshRNAによるPIEZO1ノックダウン実験を行った。機械的に刺激されたATP放出は、ATP放出経路の阻害剤であるGsMTx4とPIEZO1のsiRNA処理によって阻害された。以上より、HPdLFの細胞膜上のPIEZO1は圧力によって活性化され、細胞内 Ca2+依存性エキソサイトーシスおよび ATP透過性チャネルを介してATP放出を誘導することが示唆された。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
European Journal of Orthodontics
巻: 45 ページ: 565~574
10.1093/ejo/cjad052