上顎正中過剰歯は、全過剰歯の9割を占める。これは、上顎正中部では他の部位には見られない過剰歯好発のメカニズムがあることを示唆しているが、未だそのヒントすら得られていない。このメカニズムを解明できれば、上顎正中過剰歯の発症を予防することで、将来的な過剰歯抜歯並びに歯科矯正治療の回避を可能にし、一般的な歯科検診などの診査項目などへ反映させる可能性も考えられる。 我々は、一次繊毛の構成タンパクの1つであるOfd1を神経堤由来細胞特異的に欠損させたマウスのヘテロ接合体において、正中に過剰歯があることを見出した。Ofd1は、X染色体上にあることからX染色体の不活性化が起こる。そのため、ヘテロ接合体は、正常なOfd1遺伝子を持つ細胞とOfd1遺伝子を欠損させた細胞がモザイク状になっている。これまで正中過剰歯モデルマウスの報告はなく、これが唯一のモデルマウスになる可能性を示唆している。H&E染色にて染色された切歯部の全ての画像を取り込み再構築し、3D画像を作成したところ、正中部の過剰歯は、既存の上顎切歯と比較して、サイズが小さく歯冠形態も向きも異なっていた。また、このモデルマウスのE11.5日齢(歯胚上皮の陥入時期)に、Ofd1遺伝子欠損細胞領域のShhシグナルが発現を減少させたことから、Shhシグナルを神経堤由来細胞特異的に欠損させたマウスを作成したところ、上顎正中部に野生型では見られなかった上皮の陥入が認められた。以上のことから、正中過剰歯の形成には、X染色体の不活性化によるOfd1のモザイク発現とそれによって生じるShhシグナルの発現の変化が関係している可能性が示唆された。
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