研究実績の概要 |
本研究は岡山大学生命倫理審査委員会の承認を得て行った(研1508-016)。造血幹細胞移植を行なった保護者から同意書を得られた27名の患児の口腔状態と移植後の口腔粘膜炎の発生状態を記録し,これらの患児から移植前,移植1か月後,および移植3か月後の唾液とプラークを採取した。サンプル中の細菌の同定は口腔内レンサ球菌6種と歯周病細菌10種の特異的プライマーを用いてPCR法にて行い,それらの検出率と1人あたりの平均検出細菌数を算出した。また乳酸桿菌の選択培地を用いて唾液を播種し,培養後,得られたコロニーをカウントすることによって検出率を算出した。統計処理については,有意差をP<0.05として以下の結果を得た。 1)患児の平均年齢は9歳5か月であり,原疾患は血液腫瘍19名,固形腫瘍5名,再生不良性貧血3名であった。平均齲蝕経験歯数は3.1本であった。口腔粘膜炎の診断はWHOの口腔内有害事象スケール(0が最も軽度,4が最も重度)を使用しその割合は0が10名,1が12名,2が2名,3が3名であった。 2)細菌種の検出率はいずれも造血幹細胞移植前より移植1か月後で減少し,移植3か月後に増加した。Streptococcus mutans, Streptococcus sanguinis, Eikenella corrodens, Campylobacter rectusについては検出率に有意な差を認めた。また1人あたりの平均検出細菌数は口腔レンサ球菌では移植前と比較すると移植1か月後では減少し移植3か月後には増加したが,有意な差は認められなかった。しかしながら,歯周病細菌では移植1か月後と移植後3か月後では有意な増加が認められた。 3)乳酸桿菌の検出率は経時的に増加する傾向を認めた。 移植前後で細菌叢が変化し,その後の口腔疾患への影響が示唆された。
|