研究課題/領域番号 |
21K10198
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
多田 佳史 鶴見大学, 歯学部, 非常勤講師 (20826739)
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研究分担者 |
早川 徹 鶴見大学, 歯学部, 教授 (40172994)
友成 博 鶴見大学, 歯学部, 教授 (70398288)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セルロースナノファイバー / 複合樹脂 / 矯正用ワイヤー |
研究実績の概要 |
本研究では、持続可能な高機能樹脂のセルロースナノファイバー複合樹脂が、矯正用ワイヤーとして臨床応用の可能性を、既存の金属ワイヤーと比較し、検証した。新たな矯正用ワイヤーを開発することにより、アレルギーにより矯正治療を諦めていた患者にも治療が可能となる。また審美的なアドバンテージを得る事は、装置が目立つことで治療を敬遠していた患者への矯正治療の普及へと繋がる。さらには樹脂の特性を生かし3Dプリンターと併用することも可能でより患者に歯科矯正治療が身近なものとなる。また植物由来の素材であるため環境に有利であり、持続可能な材料として環境保全に貢献できる。 具体的な使用材料として、まず自然界の土中の微生物で分解される生分解性プラスチックであるポリブチレンサクシネート(PBS)を使用し、セルロースナノファイバーの含有量を2%、5%、10%、23%に変化させた複合材料において各々比較検討を行った。また、高強度で安定性の高いポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用し、セルロースナノファイバーの含有量2%の複合樹脂を使用した。各々において3点曲げ試験を行い、材料の機械的特性を評価した。セルロースナノファイバー含有PBS複合材料においては、セルロースナノファイバーの含有量が10%以下で矯正用ワイヤーとして使用できる可能性が示唆された。また、セルロースナノファイバー含有PVDF複合材料も矯正用ワイヤーとして使用できる可能性が示唆された。セルロースナノファイバーの含有量により複合材料の性状が大きく変わるため、どの程度の含有量で矯正用ワイヤーとして使用できるか検討することは非常に有意義である。また、他の矯正用ワイヤーであるNi-Tiと比較することで、ワイヤーの性状を比較できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
セルロースナノファイバー複合樹脂として、ポリブチレンサクシネート(PBS)を使用し、セルロースナノファイバーの含有量を2%、5%、10%、23%に変化させた複合材料において各々三点曲げ試験を行った。セルロースナノファイバーの含有量によってセルロースナノファイバー複合樹脂の性状が大きく変わってくるため、適正含有量の検討を行った。セルロースナノファイバーの含有量が多いと硬く脆くなってしまうため、折れやすくなり矯正用装置としては、不適になる。また、セルロースナノファイバーの含有量が少ないと、軟らかく剛性が失われるため、歯牙に矯正力をかけることができなくなる。特に樹脂の中でも生分解性であるPBSは剛性が低いため、含有量の範囲を大きくし、矯正用に使用できるかの検討に時間を要した。10%以下の含有量であれば、三点曲げ試験の物性評価により矯正用ワイヤーとしての使用が可能であることが示唆された。PVDFにおいては過去の報告で矯正用ワイヤーとして評価されているため、含有量は10%以下の少量の含有量の複合材料のみの物性を検討した。応力緩和試験、濡れ性試験も行う予定であったが、セルロースナノファイバーの需要が現在急激に増加しているため、材料の入手に時間を要してしまい、全体的な試験の開始が遅れてしまったため、いくつかの試験は今後行う予定である。また、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用したセルロースナノファイバー複合樹脂は作製実績が少ないこともあり、作製に時間を要した。セルロースナノファイバー含有量を変化させた検討においては特に主要で時間を要する三点曲げ試験は終えているため進行度合いとしては大きく遅れてはいない。
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今後の研究の推進方策 |
セルロースナノファイバー複合樹脂として、ポリブチレンサクシネート(PBS)を使用し、セルロースナノファイバーの含有量を2%、5%、10%、23%に変化させた複合材料において各々三点曲げ試験を行った。しかし、残りの応力緩和試験、濡れ性試験を行っていないため、今後随時行っていく予定である。また詳しく物性を把握するためSEMにおける表面の形状の比較も行う予定である。PVDFのセルロースナノファイバー複合樹脂におけるセルロースナノファイバーの含有量を変えた複合樹脂の検討も行っていく。含有量の変化により物性がどれほど変化するかの比較検討の余地がある。PBS、PVDF以外の樹脂においてもセルロースナノファイバーの複合樹脂を検討する予定である。PBSセルロースナノファイバーの含有量を2%、5%、10%、23%に変化させた複合材料各々の複合樹脂において、適度な弾性を有し、物性として矯正用ワイヤーでの使用が可能なものにおいては今後、ワイヤーの径を変化させた比較検討を行う。ワイヤーの径によっても材料の性状は大きく変化するため、径の大きさをおおよそ1mmから0.4mm前後までの変化を検討する。セルロースナノファイバー複合樹脂の作製において押し出し成型ではなく、削合にての作製を行ってきたが、作製の精度が押し出し成型より劣るため、作製の精度を上げていかなければならない。そのためには切削時により注意を払っていく必要がある。また押出成形にて作製可能か再検討していく。削合されたワイヤーにおいては今後より詳しく物性を把握するためSEMにおける表面の形状の比較、追加の応力緩和試験、濡れ性試験を行っていく。またNi-Tiのワイヤーとも比較検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
セルロースナノファイバー複合樹脂において過去に切削加工にて試料を作製した経験がなく、手探りで行うこととなり、時間を要したが、本来押出成形にかかる費用が必要となくなった。次年度において、新たな材料であるセルロースナノファイバー複合樹脂の中でもさまざまな樹脂があるため、算定のための比較検討を行うため、使用額が生じた。セルロースナノファイバーは自然由来のセルロースを使用するため、プラスチックの次世代材料として、環境に優しい点が大きなメリットとなる。しかし、新しい素材のため加工方法や矯正用ワイヤーとしての物性の評価がさらに必要である。ワイヤーに加工する方法は精密切断装置ダイヤモンドバンドソーを用いて、材料を切削することにより、断面約1.0~ 0.4mm角のワイヤーを作製する。含有量の変化や、サイズなど当初より多くの可能性を検討しているため、セルロースナノファイバーの材料費および加工費が生じるため、次年度の使用額が生じた。新しい素材のため、さまざまな加工方法を検討してみる予定である。また、さらに多くの樹脂も検討を行う予定であるため、費用がかかってくる。またセルロースナノファイバーの含有量をさらに変化させ、検討を行う予定である。
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