研究課題
近年、腸内細菌叢の解析が飛躍的に進展され、腸内細菌叢の細菌構成異常(dysbiosis)は全身的な疾患である自己免疫疾患、生活習慣病(肥満、動脈硬化、糖尿病など)や自閉症などの原因となることが明らかになっている。ランチビオテクスとはグラム陽性菌が産生するバクテリオシンの一種であり、強い安定性、広い抗菌スペクトラムと強い抗菌活性を示す。これまで小児69名の唾液および便検体を用いた解析により、ランチビオテクス(Muacin I/IIIまたはSmb)を産生する細菌を口腔に保菌することは、腸内細菌叢のα-diversityが減少することおよびFirmicutesの占有率が有意に低下すること、つまり腸内細菌叢のdysbiosisの原因となる可能性が示唆された。本結果はこれまで腸内細菌叢dysbiosisの原因となる抗菌薬投与や食餌、加齢といった外的要素でなく、ヒトに定着している細菌がその原因の1つとなることを初めて証明したものであり、ヒト細菌叢研究にインパクトを与えた結果であった。一方で、上記結果は他のランチビオテクスを考慮していないこと、対象者が小児だけであること、対象数が少ないことなど改善点が残されている。より明瞭に「口腔内にランチビオテクス産生細菌を保菌することは、腸内dysbiosisの原因となる」ことを証明するため、他のランチビオテクスの影響について検討し、その結果を反映させて大規模成人検体の解析を行う。本研究結果は、口腔ケアによる腸内細菌叢の管理、疾病予防といった全身マネジメントが可能であるか、を証明することができる研究であることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
口腔細菌が産生するMutacin I/IIIおよびSmb以外のランチビオテクスであるMutacin K8やMutacin B-Ny266について、小児唾液中での分布の程度やその性状解析を行っている。さらにランチビオテクス以外のバクテリオシンれあるロイテリサイクリンやNlmABについての解析も進んでいる。また人間ドック受診健常成人者の便および唾液検体の採取についても、400名程度採取出来、その細菌DNAの採取も進行中である。
現在進行中であるランチビオテクスおよびそれ以外のバクテリオシンにおいて、口腔で産生されたランチビオテクスやバクテリオシンが、その抗菌活性を保持したまま胃を通過し腸内へたどり着くことが可能であるかについての検討、その性状の解析を続ける。さらに健常成人者の唾液よび便検体についての採取も継続し、細菌DNAの抽出、そしてランチビオテクスおよびバクテリオシンの保有程度について検討を行う。またランチビオテクスおよびバクテリオシン産生細菌が検出された唾液より、産生する細菌の分離を行い、その性状解析を行う。
便及び唾液検体採取の採取用キットの購入、細菌DNA採取キット、ランチビオテクス検出のためのPCR taqやprimerの費用に用いる。
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