研究課題
後期高齢者で人生の最終段階に向かう者は、認知機能の低下や口腔諸器官の運動機能の低下から、咬合の維持や回復は、必ずしも咀嚼機能の維持、向上に繋がらない場合が多い。う蝕や歯周病や歯の欠損に対する咬合の再構築を基本としているこれまでの歯科医療の指針は、人生の最終段階にある高齢者に必ずしも適合しないことは明らかである。本研究の目的は、機能改善を望めない人生の最終段階に向かう高齢患者に対する歯科診療指針の作成を行うことである。初年度は、人生の最終段階における歯科診療に関する論文検索を行い本邦及び、諸外国から発せられた論文やステートメントの渉猟を開始した。また、診療が豊富な研究協力者である日本老年歯科医学会の専門医により人生の最終段階において特有の条件を持った高齢者20名の口腔内状況を収集した。人生の最終段階にある人の口腔内状況を評価する目的で、終末期ケアにおける口腔リスク評価を考案し報告した(Tanaka K, Kikutani T,et.al., Clin Exp Dent Res. 2022)。在宅療養高齢者に対する歯科医療の介入による咬合の再構築が生命予後に関連するのかを目的とし、歯科訪問診療を実施した289名(男性101名、女性188名、平均年齢82.16±7.69歳)を対象に追跡調査を行った。1000日の追跡を行い入院または死亡した者(予後不良)は、96名であり、予後との関連を検討した。対象者全体では、天然歯咬合を維持している、または義歯により咬合支持が維持できていることが有意な関連を示した。85歳以上群において咬合状態は予後と有意な関連を認めなかった。在宅要介護高齢者に対して実施した歯科医療介入によって達成した咬合支持の維持及び、咬合支持の獲得は85歳以上の要介護高齢者の予後の改善には寄与しないことを明らかにし、国際誌に投稿し、1回目のリバイス中である。
2: おおむね順調に進展している
今年度の当初に、人生の最終段階における高齢者に対する歯科治療を行う際の治療方針決定において、それに影響を与える高齢者の治療環境を外部環境、内部環境に分けて抽出し、健常者に対する診療指針では立ち行かない後期高齢者の特有な事情の洗い出しを目的としたワークショップの開催を予定している。引き続き、研究計画に基づき、症例ごとのリスクアセスメント、リスク分析、リスク対応を行っていく。文献検索においては、様々な検索用語にて抽出を試みるが、十分な数の論文は抽出されてこない。キーワードの変更などの検討を加える。また、従来の考え方に沿って、咬合の維持や回復、歯の保存処置は予後に有効な影響を与えるという先入観に則り研究計画が立てられており、人生の最終段階を迎えようとしている人に対する検討がなされていない可能性もあり、その解釈に客観的事由を与えられるように検討して行う予定である。
2年目である令和4年度は、引き続き人生の最終段階において特有の条件を持った高齢者の症例を収集する。令和4年5月12日には第1回のワークショップ形式による検討会を開催する予定である。このワークショップでは、人生の最終段階における高齢者に対する歯科治療を行う際の治療方針決定において、それに影響を与える高齢者の治療環境を外部環境、内部環境に分けて抽出し、健常者に対する診療指針では立ち行かない後期高齢者の特有な事情の洗い出しを目的としている。このワークショップから得られた知見や、開催に関する課題を抽出し、さらなるワークショップの開催の準備を行う。第1回のワークショップの成果については、日本老年歯科医学会第33回学術大会において「機能改善を望めない高齢患者の歯科診療指針策定のためのケーススタディ」と題するシンポジウムにおいて報告し、他の会員から意見を収集する。さらに、引き続き、リスクアセスメントとして、a. 改善しない咀嚼障害、義歯の誤飲事故など従来の治療法による目標と得られる結果の乖離を明らかにしリスクの明確化を行う。さらに、b. リスクのあるそれぞれの処置に対して最適な治療法を提案する(リスク分析)。対象となる高齢者にとっての優先すべき項目を特定する(リスク評価)を順次行う。次いで、c. リスク対応を行う。まず、具体的な治療法を患者の利益を優先しながらリスク対応が可能な治療指針を作成し実践する。順次、ワークショップなどを開催しながら進めていく。また、人生の最終段階における歯科診療に関する論文検索を行い本邦及び、諸外国から発せられた論文やステートメントの渉猟を継続する。また、令和3年度より、在宅診療を行った患者を対象に、義歯による咬合支持再獲得に対する危険因子、すなわち、義歯使用を困難にする危険因子の検討を行い、論文発表の予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (11件) 図書 (3件)
Br J Nutr
巻: 128(3) ページ: 467-476
10.1017/S0007114521003329
治療
巻: 104 ページ: 307-310
歯界展望
巻: 139 ページ: 190-195
J Prosthodont Res
巻: 13 ページ: -
10.2186/jdr.
10.2186/jpr.
Gerodontology
巻: 39 ページ: 90-97
10.1111/ger.12596
Gerontology
巻: 68(4) ページ: 377-386
10.1159/000516968
Nutrients
巻: 13(4) ページ: 1113
10.3390/nu13041113
J Oral Rehabil
巻: 48(2) ページ: 169-175
10.1111/joor.13120
歯学
巻: 109 ページ: 18-21
MEDICAL REHABILITATION
巻: 267 ページ: 25-31
老年歯科医学
巻: 36 ページ: E4-E33
栄養経営エキスパート
巻: 6 ページ: 40-43
アポロニア
巻: 21325 ページ: 018-022