研究課題/領域番号 |
21K10221
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
菊谷 武 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (20214744)
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研究分担者 |
高橋 賢晃 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (20409246)
白野 美和 (丸谷美和) 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 准教授 (60318558)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人生の最終段階 / 高齢者 / 歯科 / 診療指針 / リスクマネジメント |
研究実績の概要 |
歯の欠損に対する咬合の再構築を基本としているこれまでの歯科医療の指針は、人生の最終段階にある高齢者に対しては必ずしも適合しないことは明らかである。本研究の目的は、機能改善を望めない人生の最終段階に向かう高齢患者に対する歯科診療指針の作成である。 地域に立地する歯科診療所で訪問診療を実施した289名の追跡調査にて、咬合支持の維持・獲得は85歳以上の要介護高齢者の予後の改善には寄与しないことを明らかにした論文が受理され掲載された(Kikutani T, et.al.,. Geriatr Gerontol Int. 2022)。また、訪問診療を実施する地域の診療所のスタッフと訪問診療についてのワークショップを開催した。参加者は、歯科医師 16名、歯科衛生士 4名、その他8名であり、9グループに分け討論した。主題は『治療方針を決定する上で必要かつ考慮すべきこと』とした。その結果、483の意見が出され、テキストマイニングを実施した。最頻出語と高スコア語の共起性分析結果から、再頻出後は、口腔ケア、食形態、夫と介護、疾患既往であり、共起性のある事柄がそれぞれ抽出された。これにより、治療方針決定の際に、重要とされている項目が明らかになった。第33回日本老年歯科医学会にて『機能改善を望めない高齢患者の歯科診療指針策定のためのケーススタディ』と題して、認知症を持つう蝕多発ケースを提示し、治療方針を1)保存的療法で対応する2)歯肉縁下に齲蝕が及んでいるなどの現時点での保存不能歯を抜歯する3)保存不能歯ばかりでなく、将来のリスクに備えすべて抜歯する の3つ提案し、シンポジスト及び会場とディスカッションを行った。 さらに、在宅診療にて、義歯の新規製作および管理を行った233名を対象に、義歯使用に関連する因子の検討を行った。その結果、すれ違い咬合を有するケースでは認知機能の低下が、少数歯欠損のケースでは、ADLの低下が義歯の生存率に影響を与えることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ワークショップ開催において、意見集約、討論をするのにより効率的、効果的であると思われた対面での実施を予定していた。一方、新興感染症のまん延により、対面での実施が困難である状態が続いたため、ワークショップの開催が困難であった。しかし、オンラインを使ったワークショップを実施したところ、ある程度の制限はあるものの実施可能であることが今回の開催で確認できたため、令和5年度は対面にこだわることなく実施の予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年も引き続き、人生の最終段階における高齢者に対する歯科治療を行う際の治療方針決定において、それに影響を与える高齢者の治療環境を外部環境、内部環境に分けて抽出し、健常者に対する診療指針では立ち行かない後期高齢者の特有の事情を洗い出すことを目的としている。このワークショップから得られた知見や、開催に関する課題を抽出する。さらに、引き続き、リスクアセスメントとして、a. 改善しない咀嚼障害、義歯の誤飲事故など従来の治療法による目標と得られる結果の乖離を明らかにしリスクの明確化を行う。さらに、b. リスクのあるそれぞれの処置に対して最適な治療法を提案する(リスク分析)。対象となる高齢者にとっての優先すべき項目を特定する(リスク評価)を順次行う。次いで、c.リスク対応を行う。まず、具体的な治療法を患者の利益を優先しながらリスク対応が可能な治療指針を作成し実践する。順次、ワークショップなどを開催しながら進めていく。 また、要介護にある超高齢者の義歯使用に関連する因子に関する検討の結果を国際誌に論文投稿の準備を進めている。 さらに、令和5年度は、本研究の成果から得られた知見も利用し、研究者が取りまとめ役となって、日本老年歯科医学会より『機能改善が見込めなくなった患者や終末期患者に対する歯科治療について』と題するステイトメントを令和5年度中に発出する予定であり、5月には草案が完成し、パブリックコメントを収集することになっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ワークショップ開催において、意見集約、討論をするのにより効率的、効果的であると思われたため対面での実施を予定していた。一方、新興感染症のまん延により、対面での実施が困難である状態が続いたため、ワークショップの開催が困難であった。そのため、準備していたワークショップ開催に伴う交通費などの支出がなかった。令和5年度は、感染状況に応じて、対面開催とオンライン開催を組み合わせることで、交通費等の支出が計上される見込みである。また、論文投稿も予定しており、英文校正費、投稿料の支出が見込まれる。
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