摂食嚥下障害は、誤嚥性肺炎を筆頭として多疾患のリスク因子としても注目されている。そのため本障害への理解とともに根拠に基づいた対応方法の充実が期待される。我々は摂食嚥下リハビリテーションに貢献することを念頭において、食に関する“満足感”の源は「おいしさ(風味)を感じること」と位置づけ、風味認識に関わる中枢神経機構の解明に取り組んできた。現在は風味学習と脳活動の記録を組み合わせて食に関連する化学感覚の情報処理について解析し、ニオイを効率的に臨床応用するための根拠を得ることを目指している。そのため脳神経科学的見地から、学習によってなじみのある状態となった飲食物の「風味」を知覚・認識するメカニズムを明らかにし、摂食嚥下リハビリテーションにつなげることを本研究の目的とした。 C57BL/6マウスに対し味およびニオイの嗜好学習訓練を計画し研究を進めた。本来マウスは雑食であるため、嗜好度を判定する場合に、離乳後から与えられる固形餌または飲料水と比較して摂餌量の多いものを各個体の嗜好餌として取り扱うこととした。その過程で、個体差が少なく同一に好まれうる食物由来のニオイ物質に当たりをつけることができた。学習が成立したかの確認は、短期絶食後に嗜好餌のニオイ添加固形餌と非添加固形餌を与え、その摂取量を計測する他、Y字迷路法および多肢選択試験を併用して実施した。他に、平常時および行動実験過程で血液を採取し成分を分析することでストレス度を比較した。これを実施したのは、リハビリテーションに有効かつストレス度の少ないニオイ利用が可能となるポイントを見極める狙いである。さらに学習成立確認テストの結果をもとに、光学計測を実施した。現在、風味学習前後の中枢神経におけるニオイ応答特性について公表に向け解析を進めている。
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