研究課題/領域番号 |
21K10243
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
井上 一彦 鶴見大学, 歯学部, 非常勤講師 (30649570)
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研究分担者 |
山口 一郎 国立保健医療科学院, 生活環境研究部, 上席主任研究官 (50311395)
佐藤 勉 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター, 環境感染制御研究室, 研究員(移行) (60130671)
野村 義明 鶴見大学, 歯学部, 学内教授 (90350587) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 福島第一原発事故 / 放射性核種 / 永久歯 / ストロンチウム90 / 被災牛 / 電子スピン共鳴法(ESR) / チェルノブイリ原発事故 / セシウム137,134 |
研究実績の概要 |
東京電力福島第一原発事故(以下原発事故)で環境に放出された放射性核種の人体への移行を調べるために日本全国より乳歯を集め,生年別,地域別に乳歯中での放射性核種(90Sr,238Pu,239+240Pu)の濃度を調査した(JSPS KAKENHI Grant Number 15K11435).その結果,東京都,関東地方群,熊本県の試料群(生年;2002-2004)から90Sr が4.9~7.6mBq/g・Ca検出された.238Pu,239+240Puはすべて試料群において検出されなかった.90Srの蓄積は乳歯の形成期である胎生期から出生時に行われる.検出された90Srはバックグラウンドとしての蓄積であり,事故前のデータが得られたと考えられると同時に,小児への影響が非常に少なかったことを示している(研究継続中;JSPS KAKENHI Grant Number18K09896 ).そこで,今回は原発事故の汚染の成人への影響を調べるために永久歯(特に第三大臼歯)を収集し,生年別,地域別(特に被災地及び原発事故作業従事者及び経験者)の成人永久歯への放射性核種(90Sr,238Pu,239+240Pu,134Cs,137Cs)の蓄積を明らかにしてくことを目的とする.:永久歯収集方法と現状:本研究に賛同が得られた全国歯科診療所施設に資料(研究計画説明書,同意書)と収集ビンの配布を実施し,収集継続中である(約300本,令和4年3月31日現在).今回,新たに原発事故作業所等(経験者含む)も収集場所に加えた.被験者の抜歯されたヒト永久歯(主として第三大臼歯)は基本情報として,名前,住所,抜歯部位,年齢,抜歯年月日,抜歯された歯科診療施設名等が記載され,これらは個人情報として暗号化され,個人が特定できないような形で厳重に保管し, 年代別,地域別に一定本数収集できれば定量する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は,核実験による放射能降下物や食物摂取に由来した内部被曝の影響を調査するために ,90Srの抜去第三大臼歯への蓄積について調査し,1953年生まれの人の第三大臼歯が最大値(117mBq/g・Ca)を示すことを報告した (Fall out 最大値一致,1963年).これは,環境汚染が人体に影響与えている.さらに前報告で埼玉県成人第三大臼歯群(生年1980年)より,11 m Bq/g・Caの90Srが検出し,減衰していることを示した. コロナ禍長期化により,昨年度よりさらに研究機会が制約されたり,研究発表機会が激減している.日本全国より永久歯を集めているが,収集量が激減している.現在約400本が収集されているが,定量可能本数には至っていない.乳歯中での90Srの蓄積を調査しているが,乳歯収集は本年度,約100本であった(約2200本,2022年3月31日現在).震災より11年たち歯科医院からの収集が激減している.各試料群からは,2011年3月11日時点で生年;2002-2004年の関東地方群(6.9mBq/Ca),熊本県(5.7mBq/Ca),生年;2002年の東京都(4.9mBq/Ca)および生年;2004年の東京都の試料群から,7.6mBq/Caの90Srが検出されている.これらは永久歯と比較されうる.また,福島第一原発事故の放出された放射性核種の動物への移行を調査するために,被災牛の放射能汚染を測定するプロジェクトが進行している.被災地域の牧場(大熊と小丸)で,数年間被災し死亡した牛の歯と骨を収集している.そして,事故由来の放射性核種(Sr-90,Cs-134,137,Pu238.239+240)を測定し調査している.プルトニウムは,どちらの牧場の牛からも臼歯,下顎骨とも検出されなかった.土壌や空間線量の高い小丸牧場の被災牛の方が歯,骨ともSr-90,Cs-137,Cs-134の蓄積量が多いことが確認されている.これらを総合的に詳細に調査することは,非常に歴史的にも重要であり,コロナ禍等による一定期間の遅れは,正確なデータを出すためにはやむを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
福島第一原発事故の放射性核種の総放出量は,チェルノブイリ原発事故に比較すると1/7であるが,後者に比べ特徴的にはCs-134.137が多く,Sr-90,Pu238.239+240は少ない.土壌中や食品中の放射性核種も,事故から11年経過して減衰してきていることが示唆され,また,市場に出ている食品も基準値;100Bq/Kgをほとんど下回るか,この値を逸脱した食品が出回ることは皆無である.被災地域でも食品中から高濃度の放射性核種を,人体に取り入れる内部被ばくは少ない.しかし,特にSr-90は歯,骨に代謝されずに永久的に存在することや,原発事故時石灰化形成期であった特に2012年生まれ以降の第三大臼歯には,今回の事故由来のSr-90が蓄積される可能性はある.また,ヒト乳歯から微量のCs-137,Cs-134が検出されたので,ヒト永久歯でも定量調査していく.避難困難地域は汚染がひどく,人が住めない状態が半永久的に続く.その場所に存在する放射性核種の生物の移行を調査することは重要である.被災牛の調査プロジェクトで約160頭の被災牛の骨,歯の放射性核種の定量は不可欠である.そこで,被災牛2頭の歯と骨の放射性核種の定量を実施した.その結果,事故由来の放射性核種(Sr-90,Cs-137,134)が検出されている.今後,試料数を増やして精査する予定である.また,被ばくした歯のエナメル質のラジカルを測定する方法(電子スピン共鳴,ESR)は,簡易で新たな放射性被ばくの指標となりうるが,その定量の安定性には問題は多い.その精度を高め,化学分析値と比較することにより,実用化に向けての研究を推進していく.また,被災牛の歯,骨から事故由来のCS-137,134が検出された.Cs-137,134は筋肉等に蓄積されて代謝され蓄積しないということが定説であった.この結果は新しい知見であるので,ヒト永久歯でもCs-134,137の定量調査を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
長期のコロナ禍により,研究制約ならびに研究発表機会も学会中止により激減している.本研究は,事故により放射性核種の人体への移行を調査するのが目的であるが,事故から11年以上経過し,放射性核種は減衰され,食品への蓄積も十分コントロールされているのでヒト乳歯へのストロンチウム90への移行はほとんど少なくなってきていることが示唆されている.また,時間の経過とともに乳歯収集量が少なくなり,消費の見込み違いも生じた.それ故に,永久歯の収集と定量に重点を移していく.また,ヒト乳歯から微量のCs-137,Cs-134が検出されたので,原発事故との関連を食品や土壌等の汚染状況を鑑みながら,精査していく予定である.さらに,福島第一原発事故で放出された放射性核種の生物の移行を調査することは,被災牛の調査プロジェクトで約160頭の牛の骨,歯で十分に代用可能である(大量被ばくしているヒトは皆無である).被災牛からは事故由来の放射性核種(Sr-90,Cs-137,134)が検出され,その正確な定量に費用をかけたので,旅費や物品費との差が生じ,余剰部分が生じた.これは,次年度で消費する予定である.次年度は,コロナ禍の影響で,研究進展に関して顕著な影響がみられたので,影響が少ないとみられる被災牛のデータを収集するなりして研究を推進していく.
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