研究課題/領域番号 |
21K10258
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
山口 泰平 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 准教授 (80230358)
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研究分担者 |
五月女 さき子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (20325799)
有馬 一成 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (70332898)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 口腔細菌 / 血流感染 / 化学療法 / 莢膜 / 日和見感染 / 表層線毛 / 付着因子 / 病原因子 |
研究実績の概要 |
昨年度から継続してきた、口腔常在菌による血流感染の実態調査は終了したため、その臨床現場での対策方法を含めて論文を作成して公表した(日本口腔ケア学会雑誌 Vol.17(2):34-39. 2023)。この中で、口腔常在菌による血流感染の発症には末梢血の白血球数が500個/μL以下でリスクが上がるため、殺菌性の含嗽剤を使用していたが、その効果を定量的に評価する必要があった。そこで、殺菌性含嗽剤の効果を臨床的に確認するために造血細胞移植や化学療法を受けた患者について加療前と加療開始後1週毎に舌背部と上顎大臼歯の頬側部分からスワブサンプルを採取して簡易の細菌カウンターを用いて細菌数の変化を経時的に観察した。この研究は鹿児島大学倫理委員会の承認を得て実施した(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 疫学等倫理委員会)。昨年度に実施した一部のデータ-については学会で報告した。(第19回 日本口腔ケア学会学術大会、第2回 国際口腔ケア学会学術大会 東京 2022年4月23日、24日)。その後も、追加のデータを取得して最終的に研究群15症例、対象群7症例について実施し、より信頼できる結果が得られたため、論文を作成中である。 現在は、次の段階である、口腔常在菌の宿主の白血球の殺菌作用に対する抵抗性を評価するための準備を進めている。当初は上記の先行研究で感染した血液から分離される頻度が高いミーティスグループレンサ球菌に焦点を当てて患者の口腔分離株と共に、いわゆる標準株を参考に用いて、患者の血液と一定時間作用させた後の生存率を評価している。まだ、初期的な結果が得られた段階だが、次年度は細菌学的な基礎研究を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床現場で発症する血流感染の状況の把握、感染した血液サンプルから分離された細菌の同定、発症時の患者の状態といった臨床的な基礎的データ、情報の把握は終了した。この過程については、本研究の基礎的なデータになるために時間をかけて調査を行った。また、論文にまとめることができたが、投稿から出版社に受理されるまでに1年半が経過した。その間、追加調査などの要請があったため、そのための期間、労力を要した。昨年度は殺菌性の含嗽剤による効果を実施、評価することができ、これまで病室で実施してきた、血流感染の予防的な対応について一定のエビデンスを得ることができた。 上記のように臨床的な調査はほぼ終了したため、次年度は臨床分離株、標準株を用いて細菌学的なアプロ―チを進める予定だが、本来は本年度から始める予定であった。現在は手持ちの標準株と臨床材料(口腔のスワブ)、および分離した細菌について血液中での生存率を評価して、初期的なデータを蓄積しつつある。しかし、まだ体系的に実施するには至っていない。この過程で分かったことは、主な対象と考えている、ミーティスグループレンサ球菌に特定して患者の口腔から分離するのは、予想外に困難であることが分かった。また、ヒトの口腔に存在するミーティスグループレンサ球菌が単一クローンで存在しているのか、など当初、予想していなかった事項があったため、口腔内のスワブ材料から直接、細菌株を分離するよりも、血液を作用させて殺菌されなかった菌株から分離する必要があるなどの修正が必要であった。 これらのために、進捗はやや遅れているが、着実に段階を進んでおり、それぞれの段階で学会発表、論文による公表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に予定していた多施設からの臨床データの収集は本院のデータだけでも、相応に信頼できるものが得られたため、当面は見送ることとする。一方で遅延が目立つ実験室での細菌学的な基礎研究を推進する予定である。実験室の標準菌株は長期に生体外で培養、維持されてきたため、生体に生存する菌株とは性質が大きく異なることがあり、その場合は実験結果が臨床で見られるものと乖離することになる。そのため、患者材料から分離することは必須である。この点については上記のように初期的な実験により、一定の目途が付いている。これらの菌株を用いて実験室での研究を行う。以下は昨年報告した内容と同一だが、他の基礎的な調査で遅れて実施できなかったため、次年度に行う予定である。 1)口腔分離株と血流感染株の白血球による貪食作用への抵抗性と莢膜の評価 健常なヒトや患者の口腔から採取した菌株と、感染血液から分離した菌株についてヒト血液を混合して一定時間作用させてから培養することで、殺菌の程度が判断できる。それぞれの菌株について莢膜の有無を形態学的に調べる。次に莢膜合成遺伝子の変異を調べることで、血流感染に、より関与する高リスクな遺伝子配列を持った菌株、莢膜の血清型を判定する。 2)高リスク菌株と低リスク菌株の病原性に対する莢膜の関与の検証 ミーティスグループレンサ球菌の遺伝子操作の技術手法は報告がある。そこで、高低リスクの代表菌株について莢膜欠損株、高低リスク株相互の莢膜の入れ違い株、キメラ等を作成して病原性を比較する。病原性は上記の白血球による貪食作用に対する抵抗性に加えて、培養細胞への致死毒性、白血球遊走因子の分泌量、ヒトディフェンシンに対する抵抗性を評価する。いずれも確立された実験手法である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、実施したデータの収集は主に診療録の調査、日常的な診療の中で行った。昨年から継続した口腔内の細菌数の評価をするために用いた細菌カウンターは当研究室に既設の機械を流用することで可能であった。また、研究途中での中間的な評価をいただくため、共同研究者との打ち合わせ、学会での発表は、昨年までは新型コロナウイルス感染症のために各学会は現地開催を見送っていたため、関係の旅費等は発生しなかった。今年度は少しずつ現地開催が実施されているが、それでも数は少なかった。これらのために、研究予算の執行は当初の見積もりよりも少なくなった。一方で研究成果を学会雑誌に公表したため投稿料を要した。 今後は標準株、臨床分離株を用いた実験を主とした研究が主になるため、実験機材、薬品等の購入が必要である。現在は機器分析の発展のスピードが速く、今後、最新機器を使った実験を実施する必要に迫られることもありうる。大型機器は学内外の他の施設が保有するものを使用することになるが、その際の消耗品は高額になるはずである。今後の進展次第だが、計画の修正にも対応できるように、進捗に合わせて執行していく予定である。また、学会等での研究成果の公表にも予算を見込んでいる。
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