研究課題/領域番号 |
21K10321
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大原 信 筑波大学, 医学医療系, 教授 (80194273)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 保険診療 / 電子カルテ |
研究実績の概要 |
初年度の成果として、予定していた検証チームによる適正な保険診療の検証(実態調査)は、全診療科について実施を終了した。28診療科で検証対象症例は280例(入院196例、外来84例)であり、指摘件数は525件であった。その結果、診療行為の根拠となる記載が不十分である例、具体的数値の記載が欠けている例など、医師の認識とその内容に乖離があること、「電子カルテ」において、保険診療の根拠という視点での記載が不明確であることが分かった。具体的には、1.「処置」や「手術」において、不適切と判断せざるを得ない例(一酸化窒素吸入療法、局所陰圧閉鎖処置、人工腎臓の適応、術中術後自己血回収)などにおいて、診療録の記載や具体的な数値記録が不十分であり、その適応や算定基準を逸脱する必要性を判断できない例。2.「医学管理等」において、特に「特定疾患治療管理料」において算定根拠となる記載、患者への指導時間記録の不備な例。3.「検査・画像診断・病理診断」において、診療録に必要とされる根拠となる記載が不十分、ないしは記載なしの例。などが多く存在した。これらの対策は、「根拠となる(具体的な数値を含む)記載を診療録にすること。」となるが、「電子カルテ」の特性として、指示(オーダ)画面と、検査結果表示画面、診療録記載画面の連動がなく、各画面を展開して確認、記載する必要があり、そのため、不記載もしくは、不十分な記載となったことが考えられ、「電子カルテ」のシステム的な欠点と判断した。この欠点を解消するためのシステム対応として、当該指示を出すタイミング、もしくは実施入力を行うタイミングで、自動的に立ち上がる画面、すなわち具体的な数値や必要事項を網羅的に記載するテンプレートを頻用項目について設計、作成し実装すること、記載を促す確認画面を表示することで大部分は解消されると判断し、一部については実装を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度予定していた各診療科への実態調査は順調に推移し対象となる全診療科への調査を終了し、課題点の抽出から「電子カルテ」上の問題点も洗い出し、改良を加えつつある。並行して、次年度予定していた「電子カルテ」実装のクリニカルパス(以下パスと略す)のDPCの視点からの検証にもすでに予備調査に着手している。検討方針を対象は使用頻度の多いパスから始めることとし、検証ポイントを、1.設定期間がDPCを考慮した期間設定になっているか。2.検査・薬剤等について必要性かつDPCが考慮されているか。3.管理料・指導料等について、入院診療計画書、必要な管理料・指導料が組み込まれているか。の3点に決定した。予備調査として、2021年度の診療科別のパス適応率の調査を実施した。最もパスを利用している診療科は呼吸器外科で、入院患者の99.3%に何らかのパスを使用していた。逆にパス適応患者が少ないのは、心臓血管外科と脳神経外科で、合併症のある急性期患者を扱っていることが示唆された。さらに「電子カルテ」の診療データベースより2020年9月から2021年8月までの一年間について、登録された全パス数1188のうち実際に入院患者に適応されたパスとその頻度を調べた。この期間中最も多く使用されたパスは、「COVID-19感染対応入院パス」で一年間に723症例に適応されていた。現在、抽出したクリニカルパスについての精査を行っている。その理由はクリニカルパスをDPCの視点から検証するためには、全入院期間を対象としたパスでなければならないこと。そのためには、患者の入院期間とクリニカルパスの設定入院期間、DPCによる入院期間について検討する必要があると判断したことにある。同じパスが適応されている症例の入院期間にばらつきがあることも判明しており、そのばらつきを精査することで、DPCの視点からの検証が出来ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、1. 昨年度の成果を踏まえ、「電子カルテ」の問題点の改善をさらに進める。新機能を追加せざるを得ない点、既存の機能をうまく活用することにより克服できる点があることは判明している。また適切な保険診療についての医師への教育が必要なことも調査により分かったので、その点も進める予定である。2. 既に予備調査に着手しているパスのDPCの視点での検証作業を進める。前年度の予備調査を元にして、使用頻度の高い順、かつ入院期間全範囲を対象とするパスを診療データベースより抽出し、①同じパス適応患者の実入院時間のばらつきを診療データベースより得られた入院実日数をヒストグラムとして可視化し、当該疾患のDPC入院期間Ⅱとの比較検討を行う。②明らかなバリアンスなしにDPC入院期間Ⅱより、長いパスについては、パスそのものを見直し期間が延びている原因を精査し、当該診療科のパス委員とも情報を共有し入院期間Ⅱに納まる日数への修正を実施する。③パスの中で使用されている薬剤について薬剤部と共同で見直し作業を実施する。これらを順次拡大実施し、継続的体制を整備する。すなわち、パス委員会に新たなパスの申請があった場合、医学的・薬学的見地からの審査に加え、適正な保険診療の視点より審査する体制を構築する。3. 2022年の診療報酬改定により、「報告書管理体制加算」が新設された。当初の予定にはなかったが、本研究の重要な対象と考え取り組むこととした。医用画像診断および病理診断の報告書について、本院で実施している画像検査レポート見落とし防止策に加えて新たな体制強化について、「電子カルテ」での対応の強化について検討を開始する。すなわち、放射線画像診断システム・病理診断システムへの重要所見フラグの付与、確実なレポート確認の検証、検査依頼医および主治医への迅速かつ確実な情報フィードバックシステムの構築などに取り組む。
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