研究実績の概要 |
本研究では、「ビジュアルアート教育」を受けた医学生に対するアンケートおよびフォーカス・グループの結果をもとに、「ビジュアルアート教育」の教育効果について、経時的に量的および質的研究手法にて詳細に明らかにする。 臨床実習でビジュアルアート教育を受けた医学生50名を対象に質問紙調査を行った。質問紙は、多次元共感性尺度、価値志向性尺度の「審美」に加えて、特性形容詞尺度を抜粋して作成した、架空の患者に対する印象評価、医療者への芸術教育の有用性を問う項目等で構成した。ビジュアルアート教育の前後に配布し、結果を分析した。ビジュアルアート教育を行うことで、自己を架空の人物に投影させる認知傾向を表す「想像性」が17.50±4.54から18.14±4.66(t(49)=2.05,p<.05)へ、相手の立場からその他者を理解しようとする認知傾向を示す「視点取得」が19.34±2.37から20.30±1.82(t(49)=3.08,p<.01)へ、「審美」が40.46±8.36から43.78±7.96(t(49)=4.80,p<.001)へ上昇した。架空の患者の印象評価課題では、「個人的親しみやすさ」が、6.50±1.83から5.84±2.02(t(49)=3.13,p<.005)へと低下した。医療者に対する芸術教育の有用性評価が高まった(p<.005)。ビジュアルアート教育前後の「審美」の変化分は「想像性」と相関(r=.3.81,p<.01)する一方、「視点取得」とは相関しなかった(n.s.)。ビジュアルアート教育を行うことによって、「視点取得」を中心に医学生の共感性が高まった。また、「視点取得」と「審美」の変化が無相関であったことから、単に芸術に触れればよいというわけではなく、教育成果を得るには、どのように学習プロセスを設計するのかが重要であると考えられた。
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