研究課題/領域番号 |
21K10334
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大場 純奈 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 専任講師 (60644721)
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研究分担者 |
松尾 光一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40229422)
西原 広史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (50322805)
鳥谷 真佐子 慶應義塾大学, グローバルリサーチインスティテュート(三田), 特任教授 (90420819)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | PCR検査 / 新型コロナウイルス感染症 / システムズエンジニアリング / フロー図 / ダイアグラム / システム理論 |
研究実績の概要 |
本研究は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い国内の大学研究機関において立ち上がった臨時PCR検査体制を、システムズエンジニアリングの手法を用いて可視化し、多施設間の比較検証を行い、異なる基礎的背景に応じた可塑的な臨時検査体制の最適モデルの提唱を行い、現場へ還元・応用することを目的として開始した。2021年度は、少数の大学研究機関に対してPCR検査体制についての聞き込み調査を行い、それに基づいてフローの把握と可視化を行った。まず、慶應義塾大学における病院と医学部のPCR検査体制の構築過程や検査数の推移等について調査・解析を行い、パンデミック発生初期の模索期と検査体制が整った安定期の二つに分けてそれぞれ詳細なダイアグラム(フロー図)を完成させた。 また、慶應義塾大学以外に、3大学に詳しい聞き込み調査を行い、それぞれの研究機関における検査体制の物理・機能図の作成を行った。検査体制は固定していることはあまりなく、時間と共に変遷が見られることが多く、複雑な体制や仕組みの構造や経時的変化についてを把握するためにインタビューは複数回行う必要があった。次に、より幅広くアンケート調査を実施するために、全国の大学医学部の連絡先の収集を開始した。 現場においては、研究分担者の松尾と西原が運営に関わる衛生検査所において、本研究による検査体制の効率化により検査対象者の拡大を図ることができた。また、衛生検査所におけるPCR検査の結果と共に、無症状のPCR陽性者に対し、Ct値を一つの目安とした社会活動度の提唱を学術論文に発表した(Keio J Med)。さらに、衛生検査所において予備検討を実施したプール法の手法を用いて、健常者に対して行ったプール法の解析結果を論文にまとめ学術雑誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いくつかの大学にインタビューを行った後、それぞれの大学におけるPCR検査体制をダイアグラム(フロー図)として可視化する作業を行う中で、新たな疑問点や不明点が浮上することが度々あり、ダイアグラムの作成により検査体制の把握に役立てることができた。さらに、研究代表者・研究分担者が所属する慶應義塾大学医学部においては、ダイアグラムを用いながら、関係者間の共通認識を醸成しながら効率よく迅速にシステムの立ち上げを行うことができた。詳細な聞き込み調査を行なったの4大学の中でもそれぞれの機関によって体制の構築過程や仕組み、要素、最終的に落ち着いた構造など、異なることが多く、各機関によって「最適」モデルは異なる可能性が示唆された。 インタビューに基づいた解析結果を活かすために、全国の大学へのアンケート調査については次年度に行うこととした。アンケート調査を行えるよう、まずは全国の大学医学部の連絡先の情報を収集し始めた。 現場においては、研究分担者の松尾と西原が運営に関わる衛生検査所におけるPCR検査体制において、検査対象者を人間ドック受診者や歯科口腔外科治療予定者から学部内の運動部や教職員の希望者にも拡大し、感染拡大を防ぎながら安全に社会活動を行うための一助となった。また、衛生検査所におけるPCR検査の結果の紹介とともに、感染拡大防止と社会経済活動を両立させるためにPCRのCt値を参考にした社会活動範囲の目安の提唱を行なった(Keio J Med 2021)。さらに、無症状者を対象としたプール法を用いたスクリーニング目的のPCR検査の社会実装の検証の結果を解析し、論文作成・投稿を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は今後、以下の2つに分けて進めていく。 1. 医学部と病院における新型コロナウイルス感染症のPCR検査体制の構築について、慶應義塾大学に特化した詳細な記述を行い論文発表する。具体的には、初期段階の模索期、体制が整った後の安定期に分けて詳細にダイアグラムを用いた記述を行い、当時検討された課題、検査数の変化、詳細な記述報告を論文発表する。ダイアグラムには、Unified Architecture framework (UAF,エンタープライズアーキテクチャ)という比較的新しい、可塑的なシステムを反映できるツールを用いて分析し、緊急時の体制を構築する際および運用中の検討すべき観点を抽出し整理する。慶應では、病院におけるPCR検査のオーバーフローを助けるつもりで立ち上げた衛生検査所が、実際に稼働し始めてからは一定数の陰性検査(人間ドック、歯科口腔外科治療予定者等)を受け持つことで落ち着いたことを記述し、緊急時の新規システムの立ち上げには、全体像の把握、効率化、合意形成などの面からダイアグラムが有効であることを示す予定。 2. 全国の医学部に向けて簡単なアンケート調査を行い、2020年以降SARS-CoV-2感染のPCR検査を行ったかどうか、衛生検査所の登録を行ったかどうか、等を集計し、個別のインタビューに応じてくれる大学機関には検査体制立ち上げの流れや仕組みについて詳細な聞き込みを行う。これらの結果をもとに、医学部においてPCR検査体制を構築した大学間の比較検証を行い、抽象化したパターンを抽出することで、変化する外部環境に対応するための病院-医学部協力システム構築の在り方の提唱や効率的な構築をするための経験の分析を行い成果の発信を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、各種学会への参加はオンライン上となり、2021年度に学会参加費・学会に参加するための旅費は計上する必要がなかった。また、アンケート調査については、様々な方法を模索し(文部科学省や厚生労働省への委託、慶應義塾大学医学部からの発信等)全国の大学医学部への連絡は容易ではないことが分かった。アンケート調査委託費用として計上した費用の全ては2021年度使用できなかったが、連絡先の情報収集までは業務委託により行うことができた。2022年度は、このアンケート調査を実施し、集計する予定であり、また、詳細なインタビューに応じてくれる大学には、個別に聞き取り調査を行う予定だ。次年度は、もし新型コロナウイルス感染症の状況が落ち着いていて、環境が整えば、解析結果についての国内又は海外における発表も検討したいと考えている。
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