研究課題/領域番号 |
21K10373
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
兼児 敏浩 三重大学, 医学部附属病院, 教授 (30362346)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヨード造影剤 / アナフィラキシー / 医療安全 |
研究実績の概要 |
三重県内の9つの医療施設が参加する三重地域圏統合型医療情報データベース(以下、Mie-LIP DB)を活用したヨード造影剤の安全使用推進にかかる研究である。造影CT施行時にアドレナリンが投与された事例はアナフィラキシー反応を発症した患者である可能性が高いという前提に基づいている。 当院を含む3施設において、2017年~2020年の4年間で、造影CTが施行された患者の内、同日にアドレナリンの投与がなされた(造影CT×アドレナリン)事例についてのMie-LIP DBからの抽出作業が完了した。当院の事例においては、医療用データウェアハウスシステム:CLISTA!(以下クリスタ)から得た情報、薬剤副作用収集システムから得た情報、インシデントレポートから得た情報とも比較検討した。 Mie-LIP DBからの抽出データでは、造影CT×アドレナリン事例は、当院においては2017年52件、2018年59件、2019年78件、2020年62件であった。また、A病院においては、2017年14件、2018年15件、2019年33件、2020年21件、B病院においては、2017年13件、2018年20件、2019年18件、2020年15件であった。 当院におけるクリスタからの抽出による造影CT×アドレナリン事例は、2017年180件、2018年261件、2019年161件、2020年28件(年度単位)であった。また、薬剤副作用収集システムから得た造影剤アレルギー事例をカルテに突合し、アドレナリンが同時に投与された事例を抽出すると2017年0件、2018年5件、2019年5件、2020年3件であった。さらに、インシデントレポートとして、報告された造影剤アレルギー事例は、2017年0件、2018年6件、2019年6件、2020年4件であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は類似の結果になると想定していたMie-LIP DBからの抽出件数、クリスタからの抽出件数、薬剤副作用収集システム+カルテとの突合から得た情報、インシデントレポートから得た情報が大きく異なっていた点についてまず検討が求められた。同時に当院および、A病院、B病院以外の施設のデータ、ならびに、2021年以降のデータについても抽出を試みているが想定より困難でありデータの抽出が遅れているのが現状である。 ここでは、4つの抽出法による結果の差異について検討したい。薬剤副作用収集システムは造影CTが行われる現場からの報告であり、「くしゃみが出た」などの軽度のアレルギー反応も報告されているため、網羅性という点ではきわめて信頼が高い。症状の詳細やアドレナリンの使用の有無を含む転帰については患者が現場から離れることとなるので記載が不十分なことが多いが、カルテと突合することによって必要な情報はほぼ取得可能と考えられる。この手法では、2017年から2022年までの6年間で、造影CTが69105件実施され、軽症も含むアレルギー反応が、409件(0.59%)に発生し、うち、20件(0.029%)にアドレナリンが投与されている。インシデントレポートはそもそも薬剤アレルギーをインシデントとは捉えておらず、コードブルー発出というイベントが発生して初めて報告されている。6年間で22件レポートがあるが、これはすべてコードブルー事例である。 これらと比較して造影CT×アドレナリンの抽出件数はMie-LIP DB、クリスタともに10倍以上多くなっている。その主たる原因は、救急搬送された患者が重篤であり、造影CTを行うとともに原疾患による循環不全に対してアドレナリンが投与された事例であると推測される。今後は、これらの差異についての検討が課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
Mie-LIP DBを活用して、予定通り、三重大学医学部附属病院を含む参加9施設について、①造影CTの施行件数 ②ヨード造影剤によるアナフィラキシーの発生頻度 ③ヨード造影剤によるアナフィラキシーの予後 ④アナフィラキシー発症の予防対策の有無と効果について、研究を進めていく。 造影CT×アドレナリンの抽出をMie-LIP DB、クリスタは造影CT施行×循環不全事例も含めて行ってしまう点について、救急搬送事例の除外やアドレナリンの投与経路の検討(通常、アナフィラキシーに対しては筋注、心肺停止に対しては静注)等を行ってできるだけ真数に近い値の抽出を目指す。Mie-LIP DBのデータが活用可能なことが示せれば、他施設の状況も把握可能となることが大きな利点である。薬剤副作用収集システムについてもカルテとの突合なしに転帰まで把握可能なように再整備が期待される。 また、研究の過程で、過去に造影剤アレルギーがない事例であっても数回目の造影剤使用で初めてアレルギーが発症することが少なくないことが明らかになり、これらから新しいテーマとして造影剤の使用回数とアナフィラキシー、さらに、免疫チェックポイント阻害剤や抗がん剤と造影剤アレルギーとの関連についても鋭意検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で他の研究機関・研究者との交流やMie-Lip DB参加施設との情報交換の機会が極めて少なかった。今後、現地調査および成果発表に使用する予定である。
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