研究課題/領域番号 |
21K10382
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
吉田 昌記 杏林大学, 医学部, 助教 (80445197)
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研究分担者 |
高篠 智 杏林大学, 医学部, 講師 (50365201)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 遺体修復 / 人工皮膚 / シリコン / 遺体衛生保全 / グリーフケア |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、汎用性の高いシリコン製遺体修復用人工皮膚の開発である。まず第一段階として、解剖後の遺体に対し、分光測色計を用いて皮膚色を測定し、色データの収集と解析を行った。具体的には、遺体修復を行ううえで、遺族の目に触れやすい顔面の前額部および頬部、損傷や解剖時のサンプル採取等で修復範囲が広くなる傾向のある胸部ならびに腹部の計4か所を測定部位に設定した。また、これら4か所について、それぞれ3種類の人工皮膚のテンプレート(色白、標準色、色黒)調整プロトコールを確立するため、各部位ごとに分類し、色調データの解析を行った。 研究期間を通しての目標検体数は、100~150検体を予定しており、初年度は88検体のデータ収集を行った。このうち実際に有効なデータ数は、前額部で57、頬部で74、胸部で83、腹部で86であった。理由としては、頭頸部の皮膚色は死後変化やうっ血の影響を受けやすく、胸部や腹部ではそれほど顕著ではないためと考えられる。 現段階で、それぞれの部位の色白と色黒のサンプル数が乏しく、数値にばらつきが見られるが、標準色に関しては平均的な傾向が表れてきている。 これまで遺体の皮膚色の平均値および人工皮膚作成の試みに関する先行研究は皆無である。法医解剖後の遺体に対して適切な修復処置を施すことは、遺体衛生保全のみならず、その尊厳を遵守し遺族の悲嘆を緩和するために極めて重要である。本研究の成果により、遺族および社会の法医解剖に対する抵抗感を軽減し、ひいては剖検率の向上、公衆衛生への寄与が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
皮膚色データの収集に関して、研究代表者および研究分担者が立ち会う解剖のうち、現状ではサンプルとして扱える検体数が、想定より集まらなかった。これは法医解剖の性質上、死後変化の進行し皮膚変色が著しい遺体や、皮膚に広範囲な損傷の認められる遺体が少なくないためである。 また、初年度に購入した分光測色計に関連し、データ解析を行ううえで、専用の画像解析ソフトが不可欠と判断し、前倒し請求にて購入したことから、初年度から同時進行にて行う予定であった、人工皮膚試作用のシリコン素材および塗料の購入を行わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」欄で述べた通り、皮膚色測定各部位の標準色データについては順調に集まっているが、色白および色黒に関してはデータが圧倒的に不足している。よって基本的には前年度同様、遺体皮膚色データの収集・解析を継続する。 また、前年度行えなかった人工皮膚試作と塗料の選定にも取り組んでいきたいが、本研究で使用している分光測色計は固体の色は測定可能だが、液体の色を測定することができない。よって人工皮膚試作の際、塗料を混ぜながら色を微調整することができず、乾燥後に色の測定を行わなければならない。さらに同機器は高い精度で物体の色を測定可能であるが、測定した数値を実際の色として肉眼で観察することができない。これらが、今後の一番の課題である。 現在のところ考えられる対応策としては、次の通りである。本研究に使用している分光測色計には測定値をいくつかの表色系で表示する機能が備わっている。そのうち本研究では、現在一般的に最もよく用いられ、かつ精度の高いとされている表色系(L*a*b*色空間)の数値を解析に用いている。これを別の表色系(XYZ表色系)に切り替えることが可能である。このXYZ表色系は、光の3原色の加法混色原理に基づいており、L*a*b*色空間と比べ、色の再現性に問題があるものの、RGB表示に変換することが比較的容易である。この特性を利用して、本研究に用いている分光測色計の製造販売元コニカミノルタジャパンが作成したXYZ-RGB変換用Excelファイルにて、色データの変換を行う。これによりあくまでも疑似色ではあるが、色データをRGBカラーで表示・印刷することが可能である。この機能を活用することにより、目標とする人工皮膚の色調整が行いやすくなるのではないかと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画当初の、導入予定機器(分光測色計)の概算金額よりも、実際の見積もりおよび購入金額が、やや高額となったこと、また導入に先立ち貸し出しデモ機を使用した結果、専用の計測ソフトを用いたデータ解析および図表作成機能が、学会発表・論文投稿の際、不可欠と判断した。また、当初、人工皮膚試作の費用も想定していたため、機器と計測ソフトの購入を併せて、前倒し支払い請求を行った。結果として、収集データの不足により人工皮膚試作まで至らなかったため、次年度使用額が生じた。よって、今年度分と併せて、十分なデータ数を収集したうえで、人工皮膚試作費用に充当する予定である。
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