本研究は、汎用性の高いシリコン製遺体修復用人工皮膚の開発を目的としている。第一段階として、解剖後の遺体に対し、分光測色計を用いて皮膚色を測定し、色データの収集と解析を行った。具体的には、遺体修復を行ううえで、遺族の目に触れやすい顔面の前額部および頬部、損傷や解剖時のサンプル採取等で修復範囲が広くなる傾向のある胸部ならびに腹部の計4か所を測定部位に設定した。これら4か所について、それぞれ3種類の人工皮膚の基準色(色白、標準色、色黒)を設定するため、各部位ごとに分類し、色データの解析を行った。なお、測定した色の数値化は最も多用されているL*a*b*色空間(表色系)を基準とした。 初年度から令和4年度に得られた88検体のデータ解析の結果、上記4か所で各3種類の基準色を決定した。ここまでの経緯を令和4年度、第106次日本法医学会学術全国集会に於いて発表した。その後、令和5年度に事例数を168検体と約2倍に増やし基準色の妥当性について、統計学的手法(単回帰分析)を用いて解析した。その結果、測定データの分布は前額部と頬部、胸部と腹部でほぼ一致していることから、基準色の設定は前額部と頬部で顔面部、胸部と腹部で胸腹部とし、それぞれまとめた。顔面部の3種類の基準色は、肉眼的に明らかな差を認め、標準色との色差はそれぞれ色白で7.11、色黒で6.93であった。一方、胸腹部では、3種類の基準色に肉眼的な差がほぼ認められず、算出した標準色との色差も、1未満であった。よって、胸腹部は標準色1色のみで充分と判断した。さらにこの基準色(=標準色)は顔面部で設定した色白と肉眼的にほぼ同じであり、互いの色差は2.7であった。なお、工業的には色差3以上から違う色と認識されている。以上のことから、顔面部の3種類の基準色を全身の人工皮膚基準色に設定できることが明らかになった(第107次日本法医学会学術全国集会)。
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