研究実績の概要 |
ARTは、自閉症や自閉症スペクトラム障害(ASD)の発症リスク要因の一つとなるとの報告がみられる。本研究では、我が国の前向きコホート調査を基に、ARTとASDの関連性について、より正確に評価することを目的とする。対象者としてART群(IVF, ICSI)(3,032名)、非ART群(人工授精、排卵誘発)(4,198名)、自然妊娠群(約90,000名)の3群に分類した。3歳児のASDの評価には、ICD-10の自己式質問票を用いた。まずARTとASDの関連のある共変量を明らかにし、多変量ロジスティック回帰分析を行った結果、全体としてはARTとASDとの関連は認められなかった(OR 1.13, 95%CI 0.93-1.33)。しかし、ARTを受けた母親の年齢を35歳以上と35歳以下に分けた場合、35歳未満のARTはASDのリスク増加に有意な関連を認めた(adjusted OR 2.43, 95%CI 1.19-4.98)。反対に、35歳以上の場合は、有意差を認めなかった。35歳未満の母親と35歳以上の母親の生活習慣の違いについて検討すると、35歳未満の場合、比較的健康水準が低く、経済力も低い傾向にあった。また、受動喫煙を含む喫煙の影響も大きく受けていることも判明した。これまでASDのリスク因子として、母親の肥満、糖尿病、帝王切開、抗うつ剤の使用などの報告はあるが、今回の調査ではART自体への影響は確認できなかった。しかし、根本的な理由は明らかではないが、ARTを受けた35歳未満の母親の特徴として、母体の体調不良や社会経済的環境の悪化の可能性がある。そのため今後も児の成長や発達について継続して調査を行う必要性があると考える。
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