糖尿病治療薬メトホルミンが発揮するがん予防効果について、新規に同定したメトホルミンの結合タンパク質AとBに着目し、がん予防効果の詳細な分子メカニズムを解明することを目的としている。昨年度までの解析で、がん予防効果への寄与が小さいことが示唆された結合タンパク質Bについては、それ以上の解析は行っていない。 大腸がんの発生に大きく寄与しているWnt経路のβ-cateninを発現制御することが示唆されている結合タンパク質Aに関しては、昨年度までの解析で、大腸がん細胞株SW480にメトホルミンを添加するとβ-cateninタンパク質が減少し、それとは逆に結合タンパク質Aが増加すること、また、siRNAを用いてタンパク質Aを発現抑制した後にメトホルミンを添加すると、メトホルミンによるβ-cateninタンパク質の減少が減弱し、これらのことから、メトホルミンが結合タンパク質Aを増加させることで、β-cateninタンパク質を減少させるという新規分子メカニズムが明らかになってきていた。今年度はまず、メトホルミンによるβ-cateninタンパク質の減少がmRNAレベルからの減少か否かを定量RT-PCRにて解析した。その結果、mRNAレベルでの減少は1~2割程度と小さいものであった。なので、翻訳阻害剤シクロヘキシミドを用いたタンパク質の安定性評価を行った。SW480細胞に適したシクロヘキシミドの使用濃度と作用時間を検討することで、メトホルミンによるβ-cateninタンパク質の不安定化傾向が認められたが、再現性含め厳密な解析が必要である。また、メトホルミンで結合タンパク質Aが増加する分子メカニズムもシクロヘキシミドを用いて解析しているが、結合タンパク質Aが比較的細胞内で安定であったこともあり、メトホルミンが安定化するか否かについては結論が出せていなく、今後の更なる解析が必要である。
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