研究課題/領域番号 |
21K10403
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
中野 竜一 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (80433712)
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研究分担者 |
矢野 寿一 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20374944)
遠藤 史郎 東北医科薬科大学, 医学部, 准教授 (40614491)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 発現調節機構 / β-ラクタマーゼ / 抗菌薬 / グラム陰性桿菌 |
研究実績の概要 |
医療現場において感染症治療を進めている内に、薬剤耐性菌が出現し、治療に難渋する例が散見される。その要因として耐性遺伝子獲得や突然変異獲得が挙げられるが、生体内においてどのような条件によって耐性化しているか、またそれらの特徴について不明な点が多い。本研究ではカルバペネム耐性菌について、どのような耐性因子があるか、またどのような要因で出現するのか明らかにする事を目的としている。耐性化しやすい耐性菌の特徴や、耐性菌が出現する抗菌薬の投与法を解明することで、耐性菌を生み出さない条件を提案することができる。昨年度はカルバペネム耐性菌のうち、カルバペネマーゼNmcA産生株について取り組んだ。 カルバペネマーゼ産生株の多くが構成的に産生するが、NmcAは唯一調節遺伝子NmcRを保有しており、誘導的に酵素産生している。しかしながらNmcRなど調節機構の詳細は不明のままであるため、本邦の臨床現場より分離された本菌株を対象に解析を行った。ゲノム解析を行ったところ、NmcAとNmcRはEludIMEX-1という転位因子に担われ、Enterobacter ludwigii (Enterobacter cloacae complex)の染色体上に挿入されていることが判った。誘導実験では、抗菌薬のセファマイシンやカルバペネムによって顕著に誘導された。変異株作製実験では、第3世代セファロスポリンにより広域β-ラクタム薬への耐性株が出現し、いずれもNmcAの酵素産生量が増大していることが判った。遺伝子解析の結果いずれもAmpDに変異が認められ、この変異によるNmcRへの誘導促進が導かれたものと推測された。他の抗菌薬による誘導や変異株出現は低頻度もしくは無かったことから、本菌株への感染症治療として、これらの薬剤は難渋化の要因となる可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本邦で分離されたNmcA産生株について、遺伝学的解析ならびに生化学的解析により詳細を明らかにした。野生株には通常コードされていないEludIMEX-1という転位因子にNmcA遺伝子が担われていることから、耐性菌出現の要因である可能性が示唆された。同様のカルバペネマーゼ遺伝子IMIも類似した転位因子に担われていることから、本因子について今後も注目する必要がある。また発現調節機構について、初めて詳細を明らかにした。NmcRやAmpDが関与しており、抗菌薬の使用により高度耐性株出現や治療難渋化の可能性が示唆された。NmcA産生菌は世界的にも報告例が少なく、臨床現場で検出できていない可能性がある。他とは異なる特徴を有することから、本研究成果は臨床現場での検出や治療において一助になるものと思われる。これら研究成果は学会ならびに国際誌にて発表している。全般的に順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
カルバペネマーゼ産生株については予定通り研究を進めることができた。今後も引き続きカルバペネマーゼ産生株ならびにカルバペネマーゼ非産生カルバペネム耐性株について、遺伝学的背景ならびに耐性獲得機構の解明を目指す。研究の進行にあたって、これまで協力して頂いている各医療機関の検査部や検査会社と連携し、耐性株の収集ならびに解析を進めて行く。治療中に出現した耐性株については、その耐性機構の解明を行う。さらに再現実験として、耐性因子獲得のモデル実験を行う予定である。どのような抗菌薬添加条件が耐性獲得に導くか再現実験にて立証する。また、耐性機構の不明な菌株が確認された際には、そのメカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
カルバペネマーゼ非産生CREの解析として、次世代シークエンサーによる解析を予定している。昨年度はカルバペネマーゼ産生株の解析が中心になったため、次年度に繰り越すことになった。現在その分の解析は実施中である。本年度はさらなる詳細な解析を行うため、遺伝学的解析ならびに生化学的解析に必要な試薬を購入し、実験を行う予定である。
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