研究課題/領域番号 |
21K10404
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
江口 英孝 順天堂大学, 大学院医学研究科, 先任准教授 (00260232)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | BRCA1/BRCA2 / 発癌リスク / 遺伝性乳癌卵巣癌 |
研究実績の概要 |
I)BRCA1遺伝子病的ナンセンスバリアント(c.2800C>T/p.Glu934*)を有する多発皮脂腺腫瘍発症男性患者について、皮脂腺癌凍結組織の全エクソームシーケンス解析を行った。明確なドライバー変異は上記のバリアント以外検出されなかった。Copy Number Alterationsカウントは41であり染色体不安定性を示していた。またMutation signature解析により、AID/APOBEC活性に関連するSignature 13・2やBRCA1/BRCA2による2重鎖DNA切断修復に関連するSignature 3、皮膚腫瘍に多く認められるSignature 7などが上位に現れ、BRCA1がドライバー遺伝子である可能性を否定しない結果であった。当該症例の他の皮脂腺腫瘍病変では、MSH2/MSH6タンパク質が消失し、マイクロサテライト不安定性(MSI)を示したものが多く認められているが、本病変ではMSIは検出されず、同じ患者の皮脂腺腫瘍でもその発癌経路に多様性があることが示唆された。 II)72例の剖検が行われた高齢膵癌患者について遺伝学的解析を行ないBRCA1/BRCA2の関与について検討した。その結果、70歳の女性症例でBRCA2遺伝子に生殖細胞系列病的フレームシフトバリアント(c.3853_3854insG/p.Glu1285fs)を認めた。このバリアントは日本人健常人のゲノムデータベースであるjMORP 38KJPNには登録が無い極めて稀なバリアントである。当該患者は乳癌や卵巣癌などBRCA1/BRCA2の病的バリアント保有者で好発の癌の既往歴は無く、膵癌のみの発症症例であった。膵癌はHBOC関連癌とされているが、当該患者のように女性の場合、主たる標的臓器である乳腺・卵巣でより若年で癌が生じるケースが多く、このような症例について注意を払う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生殖細胞系列でBRCA1遺伝子の病的バリアントを保有する男性多発皮脂腺腫瘍患者の体細胞変異について、結果を示すことができた。分子細胞生物学的実験について引き続きベクターの構築やエレクトロポレーションによる遺伝子導入のセットアップを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞株を用いて病的意義が明らかでないがIn Silicoの解析により細胞内局在への影響が予測されているミスセンスバリアントについて、評価を進める。公共データベース等に登録されている同様のバリアントについても検討を行う。Serrated polyp多発双生児症例についても体細胞遺伝子変異解析を行い、BRCA2遺伝子の発癌への関与について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞を用いた機能検証実験が未了のため、これらに要する経費を繰り越した。
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