研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌 (EHEC) 感染症は感染症法3類感染症に指定され、無症候性保菌者でも届出対象と決められている。わが国では食品関連に従事する人には検便検査が義務づけられており、EHECが検出されると、陰性が確認されるまで、業務に就くことができない。EHECを規定する志賀毒素 (Stx)にはStx1, Stx2があり、それぞれサブタイプが知られている。Stx2fは近年、比較的新しく発見されたStxで、ヒトに溶血性尿毒症性症候群 (HUS) を発症させるなど、病原性が強いことが知られている。しかし、Stx2fは既存の検査キットでは検出できない。2021年に検出されたEHEC健常保菌社由来529株のうち42株がstx2fを保有していた。この42株のうち、4株は大腸菌ではなく、類縁のEscherichia albertiiであった。 EHECではMLST 13581, 血清型O-105が15株(39%)と最も多かったが、様々な遺伝子背景を持つ、多様な株がみられた。eaeは27株(71%)が保有しており、stx2f保有EHEC の高い病原性が伺えた。このeae subtypeはθ が73%と最多で、α2, β1, β2が残りを占めた。また、近年、注目される新しいタイプのDNA損傷毒素であるcytolethal distending toxin遺伝子 cdtも12株(32%, cdt-I 11株、cdt-II 1株)が保有していた。一方、E. albertiiはMLSTでは2693ないし、新型、血清型 Non typeがほとんどを占め、eae, cdt-IIを全て保有していた。 eae subtypeはN1.1, γ5, ε3と、いずれもE. albertiiで過去に報告されているtypeであった。今後の動向、疫学調査継続が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
stx2fについては、直近の2年分を含めた200株の解析をさらにすすめている。また、既知のO111, O157, O26などの血清型の分子疫学解析も進めており、eae type, MLSTなどの遺伝的背景がstx2e保有株、stx2f株とはかなり異なること、分布も異なることを見いだしており、全ゲノム解析を実施している。これらを統合して研究者が利用出来るデータベース、EHECの海外のデータベースに登録し、リソース菌株は研究者が利用出来る様、NRBCに寄託する予定である。また、EHEC保菌者の除菌法の確立に、臨床治験を開始する予定である。
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