研究実績の概要 |
薬剤耐性菌や新たな感染症原因菌の出現は、世界的な脅威であり、有効な対策が求められている。しかしながら1960年以降、新しい作用機序を示す、副作用が小さい、薬剤耐性菌が出現しにくいなどの有用な特徴をもった抗菌物質が天然物からほとんど見つかっていない。そこで本研究では、抗菌物質生産菌が存在している可能性が高い単離源を新たに開拓することと、効率の良い生産菌の単離方法を確立し、グラム陰性菌に対して特異的に作用する新規抗菌物質の取得を目指した。単離源として、これまで用いられることが多かった土壌や環境水以外に、昆虫を中心にした生物の共生細菌なども対象とし、初期スクリーニングの培養条件を何通りも組み合わせて目的の活性を有する菌の単離を試みた。最終的に大腸菌や大腸菌とサルモネラ菌に対してのみ抗菌活性を示す抗生物質生産菌を複数単離することができた。池の水から単離した1,008菌株を用いた抗菌活性試験の結果、大腸菌に選択的な抗菌活性を示した菌株が8個得られた。これらの菌株が生産する抗生物質は、熱に弱い、分子量が大きい、プロテイナーゼKや有機溶媒処理後に活性が消失するなどの性質から、抗菌タンパク質である可能性が高いことが示された。さらに抗生物質生産菌の中には、使用培地の種類や培養温度、時間を変化させることによって、作られる抗生物質の種類や量が大きく異なることも明らかになった。本研究で得られた知見は、新たな抗生物質生産菌を効率よく選抜できる手法につながると考えられる。また、グラム陰性菌に選択的な抗菌活性を示す菌株として、新種を含む複数の属の菌株が取得できたことから、新たな感染症の脅威に備えるためのライブラリーとしての役割も期待できる。
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