研究課題/領域番号 |
21K10417
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
漆原 範子 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (80396308)
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研究分担者 |
アウン メイジソウ 札幌医科大学, 医学部, 講師 (10749584)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薬剤耐性 / 家畜 / 伴侶動物 / ブドウ球菌属細菌 / 黄色ブドウ球菌 / CoNS |
研究実績の概要 |
薬剤耐性対策には動物,食品,環境等を含めた分野横断的に取組むこと,すなわちワンヘルスアプローチが重要である。本研究の目的は,生活環境における感染起因菌の分布と薬剤耐性を調査し,ゲノム配列に基づいた比較解析・系統解析を通して耐性遺伝子の進化,及び伝播の様態を考察し,耐性菌の蔓延対策に資することである。 2021 年度は食肉由来の菌体の収集及び解析を中心に行った。札幌近郊の小売店にて購入された鶏肉及び豚由来の 127 株のブドウ球菌属細菌及び Mammaliicoccus 属細菌について 16S rRNA の配列に基づいた菌種の決定および,微量希釈法を用いた薬剤感受性を調査した。菌種をひとつに絞り込めない菌体も多かったため,遺伝系統の近い数種をまとめた species group(Becker k. et al, Clin Microbiol Rev. 2014)として同定した。 鶏肉由来では Cohnii-Nepalensis,Simulans に属するブドウ球菌細菌が多く,豚肉由来菌体では Saprophytics,Warneri が多かった。黄色ブドウ球菌は全体の 4% であった。薬剤感受性試験では,マクロライド系及びスルフォンアミド系の抗生剤に対する感受性が低下している菌体の検出頻度が高かった。マクロライド系抗生剤は家畜の飼料に添加され,スルフォンアミド系抗生剤は治療に用いられることが多い。それらの使用を通じて耐性菌が発生した可能性が考えられた。 Mammaliicoccus 属はブドウ球菌属細菌に共通のメチシリン耐性遺伝子 mecA の起源を染色体ゲノム上に持ち,mecA 遺伝子(群)の進化を考える上で重要である。13 株検出され,5 株が mecA 陽性であった。その中で 3 株は M. fleurettii で,mecA 遺伝子群の構造を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は食肉由来菌体の収集と解析を主として行った。対照の試料・菌種は次のように決定した。<調査試料>市販食肉のうち密集した環境で飼育されている豚および鶏とした。<調査試料>黄色ブドウ球菌は院内感染の制御において重要である一方,食中毒においても注意すべき汚染源である。本菌種の獲得している薬剤耐性遺伝子はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌からの水平伝播に拠るものが多い。よってブドウ球菌属細菌全般を収集対象とした。ブドウ球菌属細菌の mecA 遺伝子(群)の起源が Mammaliicoccus 属細菌,M. fleurettii ゲノム上にあること,2020 年以前はブドウ球菌属に分類されていたことから Mammaliicoccus 属細菌も解析に含めた。 鶏由来 74 株,豚由来 45 株の菌体(サイクロバクター属細菌 2 株を含む)について菌種を同定し,薬剤感受性を調べた。マクロライド系及びスルフォンアミド系の抗生剤に耐性を示すものが多く検出された。飼料への添加または治療薬としての使用が起因である可能性を考えている。なお黄色ブドウ球菌の占める割合は 4% で,メチシリン感受性であった。 同一包装から分離された同一菌種(16S rRNA の配列が一致)間で異なる薬剤耐性パターンを示す組合せがいくつか見られた。これらの菌体の全ゲノム配列を比較することで耐性の獲得と伝播の様式を解析できると考えている。mecA 陽性Mammaliicoccus 属細菌5 株のうち,3つは M. fleurettii であった。全ゲノム配列を得て,mecA 遺伝子群の遺伝子構造を決定した。 以上の様に,「感受性低下を示す抗生剤のクラスにある程度の傾向がみられたこと」,「菌体間での耐性遺伝子の伝播や進化を解析する上でモデルとしての使用が期待できる菌体が得られたこと」の2点から概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
食肉由来株については今後も継続して収集を進める。更に耐性を示した菌体においては,その起因となる遺伝子上の変異(耐性遺伝子獲得の有無,対象遺伝子上の塩基置換,プラスミド等の可動性遺伝因子の獲得など)を検討し,データベースに登録されている既報との比較によって,進化や伝播について考察する。2021 年度に収集された3つの mecA 陽性 M. fleurettii (P22,P23,P26)は同一の包装から分離されており,16S rRNA の部分配列が一致していることから同一菌株に由来すると考えられた。しかしながら 2株(P22,P23)はオキサシリン感受性であり,決定した遺伝子配列から,調節遺伝子に生じた変異が原因と考えられた。この変異に伴う発現調節の可能性は,mecA 遺伝子(群)の進化の観点から非常に興味深く,転写レベルの差異も含めて解析を続ける予定である。これらの他にも同一包装から分離された同一菌種(16S rRNA の配列が一致)間で異なる薬剤耐性パターンを示す菌体が見いだされている。これらについては全ゲノム解析を行い,菌体間での耐性遺伝子やゲノム配列の差異を詳細に調べることとする。 伴侶動物由来菌体については現在,予備的な検討を行っている。2022 年度目から本格的な収集開始の予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
キャンペーン等で当初の予定より低額で購入できた試薬があったため,次年度使用額が生じた。消耗品の購入に充てる予定である。
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