研究課題
2015年,世界保健機関(WHO)総会で採択された「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクショ ン・プラン」以降,加盟各国も自国のアクションプランを策定し実施している。薬剤耐性対策にはヒト,動物,食品,環境の境界を越えた視点,すなわちワンヘルス・アプローチの視点に立った取り込みが重要である。我が国で現行の「薬剤耐性(AMR)アクションプラン 2023-2027」では,感染予防・管理,抗微生物剤の適正使用と共に,耐性菌の動向調査・監視が重要とされている。ブドウ球菌属細菌は約 50 種類が知られており,中でも黄色ブドウ球菌(S. aureus)は病原性が高く,院内感染,及び食中毒の原因菌として検出率が高い。ブドウ球菌属細菌は種によって,または同じ種内でも遺伝子型(sequence type: ST)により一定の宿主特異性がある。本研究は,その特徴に着目し,生活環境におけるブドウ球菌属細菌の分布と薬剤耐性を調査し,ゲノム配列に基づいた比較解析・系統解析を通して耐性遺伝子の進化,及び伝播の様態を明らかにすることを目的とする。これまで食肉から分離される菌体解析を中心に行った。同定された菌種,及び薬剤感受性のパターンから食肉中の菌体とヒト感染起因菌との直接的な関連を示唆するものはないと推察している。S. aureus では,上記の遺伝子型 ST の他にも,宿主ごとに特徴的な遺伝子構造がみられる。本課題にて収集した菌体中の 6 検体の S. aureus,および先行研究(Osada M et al, 2022)にて収集された 10 検体の S. aureus について解析したところ,鶏,及び豚への定着能を獲得した菌体と相同性の高い可動性遺伝因子や病原遺伝子配列が見られた。
3: やや遅れている
食肉由来菌体についてはほぼ解析を終え国内学会に報告済みである。現在英文論文の準備中である。他方,愛玩動物から分離株の解析は予備検討は終了したが,進行が遅れているため。
食肉由来菌体の調査結果を論文として公表する。一部,薬剤耐性または形態的に特徴的な菌体については全ゲノム解析も視野に入れる。愛玩動物からの菌体収集を行い,菌種の同定,薬剤耐性の調査,及び耐性遺伝子の解析を行う。遺伝系統の解析が可能な菌種の場合はそれを決定し由来を考察する。
愛玩動物からの菌体分離,及び解析が遅れているため,それらに係る費用が次年度使用額として生じた。遺伝子解析に用いる消耗品(培地,分子生物学的解析用試薬等),または論文投稿にかかる費用として用いる予定。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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