亜鉛の生活習慣病に対する重要性は、様々な基礎研究や疫学研究から示されている。メタロチオネイン(MT)-1/2は亜鉛により誘導され、生理的役割として細胞内における亜鉛や銅などの必須金属の代謝調節機能や抗ストレス作用を有する。しかし、MT-1/2遺伝子欠損条件における生活習慣病発症に対する亜鉛の効果の程度については不明である。本研究では、MTに着目した亜鉛による生活習慣病改善メカニズムをin vivoおよびin vitro実験系から試み、生活習慣病発症に対するMTの生理的意義やより効果的な治療法の提供を目的としている。本研究課題において、野生型およびMT-1/2欠損マウスを用いた比較解析から、亜鉛補充は、高脂肪食(HFD)誘導性の脂肪肝や耐糖能異常に対して一定の改善効果を示すが、亜鉛により誘導されるMTが存在することで、より強い改善効果が得られることが明らかとなった。最終年度では、HFDによって脂肪肝および耐糖能異常を生じさせたMT-1/2欠損マウスに精製した亜鉛-MT複合体を投与し、マウス個体レベルでの糖尿病および脂肪肝改善効果を検討した。結果、亜鉛-MT複合体処理により、肝臓中のMT-1および2 mRNA発現量は増加しており、亜鉛-MT複合体が肝細胞に取り込まれていると考えられた。亜鉛-MT複合体は肝臓重量に影響を与えなかったが、内臓脂肪重量を減少させた。また、亜鉛-MT複合体は、空腹時の高血糖状態および形成した脂肪肝を改善した。硫酸亜鉛は、上記の解析項目に大きな影響を与えなかった。以上、亜鉛-MT複合体は、糖尿病や脂肪肝などの生活習慣病に対して、既存の亜鉛補充療法よりも有効な手段となり得る可能性が示唆された。 本研究を通して、亜鉛補充による糖尿病および脂肪肝の改善作用において、MTが感受性決定因子として重要な役割を担っていることが考えられた。
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