研究実績の概要 |
昨年度実施した解析と先行研究で実施した解析結果を統合し以下のことを明らかにした。 【風疹ウイルスの体内からの排除と液性免疫誘導との相関に関する解析】 IgM抗体及びIgG抗体価と体内に存在するウイルス量の相関を調べた。各検体中に排泄されるウイルス量と血清/血漿中のIgM抗体価は、血清/血漿で最も相関が強く(Spearman's rank correlation coefficient, -0.4433; p<0.0001)、次いで、咽頭ぬぐい(coefficient, -0.3131; p=0.0004)、PBMC(coefficient, -0.2969;p=0.0019)、尿(coefficient, -0.1049;p=0.2385)であった。各検体中に排泄されるウイルス量とIgG抗体価との相関については、血清/血漿で最も相関が強く(Spearman's rank correlation coefficient, -0.5983; p<0.0001)、次いで、PBMC(coefficient, -0.3727;p<0.0001)、咽頭ぬぐい(coefficient, -0.2870; p=0.0013)、尿(coefficient, -0.2197;p=0.0127)であった。ROC曲線解析から求めた血清/血漿中のウイルスを陰性化するために必要なIgG抗体のカットオフ値は、6.43IU/mLであった。 【風疹ワクチンによって誘導される抗体のパネル化とエピトープの決定】 風疹ワクチンを接種した健常人ボランティア(9名)からの採血を実施した。ワクチン接種前に各々6.1IU/mL~51.5IU/mLの抗風疹ウイルスIgG抗体を有していた。ワクチン接種から1~3週間後に採血を実施したが、ウイルス血症を起こした者はいなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
【風疹ウイルスの体内からの排除に関連する免疫因子の解析】患者血清や末梢血単核球を使用し、サイトカイン類の誘導量を蛋白質・mRNAの発現解析で評価する。特にTH subset(TH1, TH2, TH17, Treg)活性の優位性を明確にするためinterleukin-2, 4, 5, 6, 10, 13, 19, 17, 21, 22, TNFα, TGFβ, IFNγの誘導量を市販のELISAキットやReal-time RT-PCR法にて測定する。また、末梢血単核球について、Flowcytometryを用いてTH1(CD4+, IFNγ+), Th2(CD4+IL4+), TH17(CD4+IL17+), Treg(CD4+CD25+FOXP3+)の存在比を明らかにする。上記により風疹ウイルスの体内からの排除の過程での細胞性免疫(TH1)又は液性免疫(TH2)の優位性、免疫応答のバランスを明らかにする。 【風疹ウイルス E1領域の準種解析】風疹ウイルスの抗原性に関与するE1領域を対象に次世代シーケンサーを用いた準種解析を行う。風疹ウイルスゲノムのレパートリーと存在比率を明らかにし、免疫学的圧力の存在下、非存在下での多様性の程度を明らかにする。 【風疹ワクチンによって誘導される抗体のパネル化とエピトープの決定】ヒト血液から網羅的に抗原に反応する抗体を作製しパネル化する。その中から、中和活性等を持つ機能性抗体を探索する。ワクチンが効果を発揮できない免疫学的弱者における感染防御や妊婦の予防的並びに急性感染の治療に使用できる抗体医薬品の開発に繋がる知見を得る。外部機関との共同で行う予定である。
|